大海の一滴の大切さ

今年の4月、ベトナムを訪問し、ベトナムの移住移動者委員会の担当司教をはじめとした関係者と会ってきました。それは、最近、急激に増えた技能実習生のことについて両国の教会がどのように協力し合えるか協議するためでした。技能実習生については、ベトナムで100万円近いお金を支払って日本に来るものの、実習生という弱い立場からさまざまな不当な待遇や暴力を受けている実態があります。強制退去させられた元実習生の話も聞きましたが、このようなひどいケースが教会や市民グループ、労働組合などに持ち込まれています。残念ながら日本がテレビで放映されるような「おもてなしの国」とはとても言えない実態があります。

実際に関わっている人たちが、実習生などの権利を勝ち取るために懸命に努力しても、それはまるで「大海の中の一滴」であるようなわずかな成功例があるのみで、多くの人たちは失意のうちに帰国させられたり、不当な労働に甘んじざるを得なかったりしています。それでも、実習生たちが「もう日本には二度と来たくない」と言いながらも、関わってくれた人に、「でも、あなたに会えてうれしかった。あなたのことを絶対忘れない」と言ってくれることがあります。関わりの「一滴」には質の違う不思議な力があるのでしょう。

ある僧侶が国会前でマイクを持ち、政府に対して「百の悪も一つの善に勝つことはできない、私たちは小さな力でもあきらめない」と語っていました。私たちが対峙するのは、問題の多い日本の難民移民政策の方針とそれを具体化する法律というとてつもなく大きい課題ですが、一方で一人ひとりの問題に大切に関わっていくことは、たとえそれが大海の一滴であっても、巨悪を越えていくことに必ずつながることを信じたいと思います。

もうすぐ「船員の日」です。AOSというグループでは、港に入る船を調べ、訪船して船員たちに会い、彼らを友として迎え、その必要性に応える活動をしています。数知れない船の数知れない船員たちの中で、こうして会える人たちは少ないでしょう。船員たちにとっても、そのように迎えいれてくれる人たちに会う機会はほとんどなく、それこそ大海の一滴かもしれません。それでも、AOSのような活動があり、祈る人たち、また船員に会いに行こうとする人たちが実際にいること自体が、世界の海で働く船員たちに対して、「私たちは海で働くあなたたちを決して忘れていません」というメッセージになるのです。

大海の前にすくんだり、ため息をついたりせずに、一滴の力を信じて祈り、行動したいものです。

2018年7月16日
日本カトリック難民移住移動者委員会
委員長 松浦悟郎