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第7回 人の痛みを知るための法教育

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日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」への人権侵害を考えるシリーズ第7回は、福岡県福岡市のミッションスクール、西南学院大学法学部の「人の痛みを知るための法教育」の実践を紹介する。

西南学院大学法学部の根岸陽太准教授のゼミでは、国際社会の〝はざま〟で助けを必要としている難民や紛争被害者らの人権を守るために、学生が国際法を主体的に活用できるようになることを目指している。

これまで、武力紛争の現場を体験する模擬戦争や、紛争下の犯罪をめぐる国際刑事法廷の模擬裁判など、「専門的」な視点を養うユニークな教育プログラムに取り組んできた(国際法教育プロジェクトKARDIANOIA)。しかし、昨年は国内に目を転じ、1年間かけて地元九州で起きている国際的な社会問題に向き合うことにした。

その理由を根岸准教授はこう話す。

「マレーシアでの模擬戦争大会に参加した際にインタビューした国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の宮内博史さん(弁護士)の一言を思い出しました。宮内さんは、海外に目を向けるだけでなく『日本にも国際的なフィールドがある』こと、特に私たちが住む九州でも国際的な問題が見逃されていることを指摘してくれたのです」

九州には、ベトナムなどからの技能実習生が大勢いるが、契約内容とは違う低賃金の長時間労働を強いられている人も少なくない。また長崎県大村市にある大村入国管理センター(以下・大村入管)では、在留資格が付与されない難民認定申請者らの長期収容が深刻な問題を引き起こしている。そこで、根岸ゼミでは「2019年大学教育支援プログラム」として、日本の法制度の中で起きている地域での弊害を理解し、情報発信するために、以下のような取り組みを行ってきた。

 入管を疑似体験

第1段階は、ゼミの学生たち(以下、ゼミ生)が大村入管で面会活動を行っている竹内正宣さん(行政書士)から事前講習や指導を受け、大村入管の被収容者の現状や個人情報の管理について学ぶ。そして第2段階は実際に、大村入管に行き、竹内さんや教会関係者が面会活動をする様子を見学。また被収容者にも面談する。

仕上げの第3段階は学習成果として、大村入管での体験を基に教材「入管体験シミュレーション」を作成する。教材では、ゼミ生たちが被収容者を演じ、参加者の高校生たちに「面会活動」を体験してもらうのだ。

この成果発表は昨年11月、根岸ゼミの2日間の公開セミナーの中で行われた。「日本における難民認定の壁―身近に潜む国際問題―」をテーマにした同セミナーで、竹内さんや、大村入管での面会活動を続けている柚之原寛史牧師(長崎インターナショナル教会)を招いての講演会を実施。その後、入管体験シミュレーションを公開した。

同大学の図書館の一室を、大村入管の面会室に見立てて、ゼミ生が被収容者になりきって〝演じる〟。被収容者の人物設定は、難民認定申請者と元技能実習生。元技能実習生は、最低賃金で睡眠が数時間しか取れない長時間労働を強いられてきた。労働基準法違反の職場環境に耐えられず、職場から逃げ出し、別の仕事を見つけようとしたが、在留資格違反の問題で入管収容施設に入れられた。

面会活動ボランティア役の高校生たちは、ゼミ生が演じる被収容者に、「日本に来た理由」と「入管収容施設での生活状況」について質問していく。そして質問が無くなった段階で終了となる。

 「寄り添う」とは

ゼミ生は被収容者を演じるため、技能実習制度や日本の難民認定制度の問題点、さらにその犠牲になった外国人の実情を学習。そして、それらを理解した上で、高校生らの質問に答えていったのだ。

ある高校生が「けがや病気で困っていることは?」と質問すると、ゼミ生は、苦しげに「(入管収容施設に)ドクターがいるはずなんですが、効果のない薬ばかりが出てきて、人間として診察してくれないんです」と答える。

また「母国に強制送還されたらどうなりますか」との質問には、ゼミ生はうつむきながら「殺されると思います」と声を絞り出す。

しかし、次のような質問では、その場の雰囲気は一変、険悪になってしまう。

「在宅よりも入管収容施設にいた方が、健康面での心配はないのでは?」とか、「仮放免(入管収容施設外での生活を認める制度)でここから出ようとは思いませんか」等々。

入管収容施設には深刻な医療放置問題がある。また「仮放免」が認められるまでの道のりは長く、「仮放免」中は就労が禁止され、国民健康保険にも加入できない。こうした基本的な知識を持たないばかりに、被収容者の痛みに寄り添えていないことが、質問内容によって露呈してしまうのだ。

実際に、こうした質問を被収容者に投げ掛けてしまった場合には、相手を失望させ、また傷つける可能性が極めて高い。しかし、教材としての入管体験シミュレーションは、国際社会の〝はざま〟に置かれた人々の存在を知るための入り口。痛みに寄り添うための第一歩を踏み出すことに最大の利点がある。

1年間学んだ根岸ゼミの学生たちからは「直接、被収容者に面会した時、この問題に無知だった自分を恥じました。この感情を忘れてはならないと思っています」という感想が聞かれた。

「今回の教育プログラムを通して、学生たちは自分たちにできることを考え続けることの責任を感じ取ってくれたと思っています。先輩たちの意志を引き継いで、今年度は法学部の垣根を越えて参加者が集まり、コロナ禍の最中にも懸命にプログラムを進めています。今後も、九州で国際社会の〝はざま〟に置かれている人々に寄り添う気持ちが豊かに育っていくことを願っています」と根岸准教授は期待を寄せている。

大学生が被収容者を演じ、高校生らが面会活動を体験する「入管体験シミュレーション」

 

 

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