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第11回「仮放免者」の基本的人権は?

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(カトリック新聞2020年8月9日号掲載)
 日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」への人権侵害を考えるシリーズ第11回は、「仮放免」(注)が認められた人々(以下・「仮放免者」)らの命を守る活動をしているNPO(特定非営利活動)法人北関東医療相談会(後藤裕一郎理事長/通称アミーゴス)の前半。アミーゴスに同行取材した。

 アミーゴスは、スペイン語で「友達」を意味する。事務局長で理事の長澤正隆さん(さいたま教区終身助祭)が、妻の和子さんとともに23年前に始めた「外国人の為の医療相談会」がその母体で、現在の活動は外国籍の生活困窮者を対象にした①無料健康診断会の実施、②個別医療相談と医療費支援。また③生活支援、さらにコロナ禍においては④マスクや消毒液の無料配布等も実施している。
 昨年はほぼ毎月、無料健康診断会を実施したが、受診者は延べ360人を数える。いずれも健康保険証を有していない外国人たちだ。またアミーゴスの食料支援を受けている外国人家族は25世帯60人。中でも「仮放免者」らの生活困窮状況は深刻さを極めている。

コロナで家賃滞納

 7月10日、長澤夫妻はアミーゴスの事務所があるJR南浦和駅(埼玉県さいたま市)前から、車で1時間半ほどの群馬県在住の外国人家族を訪問した。邑楽、舘林、太田、高崎などに点在する外国人家族に丸1日かけて会う巡回訪問だ。教会から預かったコロナ禍の緊急支援金を届けることが目的だった。
 訪問先は、在留資格が3カ月以内の難民認定申請者や、在留資格のない「仮放免者」で、いずれも新型コロナウイルス感染拡大に伴う一人10万円の「特別低額給付金」の対象の枠外になっている人たちだ。彼らの居住地はいずれも交通の便が極めて悪い所ばかりで、車や電話、テレビも所有していない彼らに会うためには、長澤夫妻の方から出向いて行くしか方法がないのだ。
 あるネパール人男性を訪問した時のことだ。長澤さんが玄関のブザーを何回押しても、なかなか出てこない。しばらくしてその男性は、やっと訪問者が長澤さんだと気付いて、ドアを開けた。しかし、直立不動で、表情は硬い。教会の緊急支援金を受けた〝証し〟として、顔写真を撮らせてほしいと言うと、とても怖がった。アパートには冷房のエアコンはなく、室内はとても蒸し暑かった。汗でびっしょり濡れたその男性のシャツには、一面に黒かびの斑点が付いていた。
 妻と、そして6歳と10歳になる子どもと暮らしているというその男性は、自身の状況についてこう語った。
 「大学卒業後、日本に来た。母国で政権に反発し〝政治犯〟になりました。だから、(写真で)顔を出すのは(命の危険があるので)怖い。今の在留資格(特定活動3カ月)ではまだ働くことができません。収入がなくて生活は本当に大変です」
 また別の地域に住むフィリピン人女性は、ミャンマー人の夫との間に5人の子どもがいる。夫妻共に「仮放免者」であるため、就労は禁止され、生活費は仲間や支援者らが持ち寄った善意の寄付によって支えられているのだという。しかし、コロナ禍で支援者の収入も激減状態になった。家賃は現在、4カ月分滞納。借家の家庭菜園で野菜を育て、食費を浮かす努力をしているのだが、生活苦から抜け出すことはとてもできない状況だ。

アミーゴス事務局長の長澤さんはこう話す。
 「『仮放免者』や難民認定申請者など、生活に困窮する外国人の現状は、日本ではあまり知られていません。『仮放免者』は『就労禁止』。移動の自由もない。社会保障もない。そのような中で、彼らは仲間たちや支援者が持ち寄ってくれる、わずかなお金で生活をしているのです。コロナの影響でその支援金も滞っているのが現状です。いったいどうやって彼らは、生きていけばいいのでしょう。『死ね』と言っているのと同じですよ」
 こうした基本的人権や生存権が守られていない状況について、長澤さんは5月13日、東京・参議院議員会館で開催された入管の警備課長らへの「省庁ヒアリング」で、「『就労禁止』ならどうやって生きていけばいいのでしょう」と抗議して、質問したが、警備課長は、平然と次のように言い放ったのだ。「当事者の財産と、身元保証人の支援で生活したらいいでしょう」と。

医療費は100%以上

 今回の巡回訪問とは別の日に長澤夫妻らが訪ねた埼玉県春日部市にある工場の倉庫。そこには来日して間もない難民認定申請中のパキスタン人の親子6人が、ブルーシートを張って生活していた。冷たい工場のコンクリートの床に、マットレスを敷いただけの粗末なテント生活。食事は、工場の職員たちが帰宅した後に手洗い場で作る。生活費は、教会関係者の支援金で賄われているという状況だった。
 父親は極度のストレスから難病の潰瘍性大腸炎を発症。母親は中度の貧血。長女は子宮内膜症を患っている。体調を崩しても一家には健康保険証が無いので、病院に行けば、医療費は実費(100%)を払わなければならず、当然、我慢することになるのだ。
 一方、在留資格が得られない非正規滞在の「仮放免者」も、入管収容施設に長期収容されていた間に、精神的にも肉体的にも健康を害してしまっている。そのため、「仮放免」認定後も治療が必要となる状況に陥るが、病院に行きたくても健康保険証がなく、治療費が払えない状態は、前述の難民認定申請中のパキスタン人家族と同様だ。その結果、病気をしても我慢を続け、病状が悪化してしまうケースも少なくない。医療費は100%~300%になることがあるのだ。
 「日本では在留資格が無い人は、基本的人権さえ守ってもらえないのが現実なのです」と長澤さんは嘆く。働くことができずに、病気になっても医者にかかれない外国人たちの生命を守るために、アミーゴスは医療費支援を行い、医療制度を学びながら、無料または低費で治療・手術が受けられる病院を探す活動を続けているのだという。
 【注】「仮放免」とは、難民認定申請をしたり、配偶者ビザの申請などを行ったものの、在留資格が得られず「非正規滞在」となった外国人に対して、入管が入管の収容施設外での生活を認める制度。しかし、「仮放免」の間は、①就労が禁止され、また②入管の許可なく居住地がある都道府県を出ることもできず、さらに③健康保険にも加入することができない。

教会からの支援金を受け取る「仮放免」中の家族

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