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第40回 東京五輪と難民

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㊵ 東京五輪と難民
(カトリック新聞 2021年8月15日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第40回は、日本で開催の第32回オリンピック競技大会のために来日した選手が、難民認定申請の意向を示したにもかかわらず母国に帰国させられた事件について。

東京オリンピック・パラリンピック(以下・東京五輪)には、国際オリンピック委員会(IOC)の難民選手団(29人)と、国際パラリンピック委員会(IPC)のパラリンピック難民選手団(6人)が参加する。アフガニスタン出身の自転車競技選手や、南スーダン出身の陸上選手など、世界が注目するスポーツの祭典の中で、その「存在」を通して「平和な世界」の実現を訴え、人々の共感を呼んでいる。
しかし一方で、この〝難民歓迎ムード〟とは裏腹に、日本の〝難民政策〟の〝未熟さ・貧弱さ〟が如実に表れた事件が起きた。7月16日に、ウガンダ人のジュリアス・セチトレコ選手が、「日本で働きたい」と、大阪・泉佐野市の事前合宿地から、友人を頼って失踪した出来事だ。
セチトレコ選手は、宿泊先にメモを残して行方不明になっていたが、失踪から4日後の7月20日、三重県四日市市で保護され、四日市南警察署で事情聴取を受けた。失踪者を出したことは、新型コロナ感染防止上の問題に当たる。だが、それだけでなく受け入れ先の泉佐野市と、事前合宿地周辺の警備を担当していた大阪府警にとっては、行方不明者を出したことは〝不祥事〟であり、世間には言い訳が通らない〝大失態〟になってしまった。
同市と同府警は〝早期解決〟と〝汚名返上〟を図ろうと翌21日、セチトレコ選手をウガンダ大使館がある東京・渋谷警察署に移送した。
そしてセチトレコ選手が難民認定申請の意向を示したところ、ウガンダ大使館担当者が、自発的に帰国するように説得し、その日のうちに彼をウガンダに帰してしまったというのだ。
選手の帰国を説得できたことを喜んだのか、失踪事件の〝解決〟ができたと考えた泉佐野市役所の職員と大阪府警の警官が、セチトレコ選手がまだ渋谷警察署にいる時点でハイタッチする姿が目撃されている。

難民申請の意向に弁護士が奔走

セチトレコ選手に、難民認定申請の意向があると知って、いち早く動いたのは、難民支援に尽力する児玉晃一弁護士だった。難民認定申請に必要な書類を携えて、セチトレコ選手がいる渋谷警察署に駆け付け、申請援助をしようと面会を申し入れたのだ。児玉弁護士はこう話す。
「渋谷署は〝部屋〟を貸しているだけで、事情は分からない様子でした。対応した大阪府警の警部補は、セチトレコ選手への面会の取り次ぎすらしてくれませんでした。しばらくロビーで待ちながら、いろいろ手を尽くしましたが、らちが明かない。大使館が、彼をその日のうちに帰国させると報道で聞き、羽田空港(東京)で待つことにしました。空港で、セチトレコ選手に難民認定申請の書類を手渡しし、申請手続きをしようと思ったのです」
しかし無情にも、セチトレコ選手が乗った飛行機は成田国際空港(千葉)から飛び立った。
この一連の流れを受け、児玉弁護士は問題点を次のように指摘する。
「セチトレコ選手が失踪したことは、ウガンダ政府にとっては、あからさまに〝顔に泥を塗る〟行為で、反政府的な活動と見なされます。ウガンダが35年間続く独裁国家であることを考えれば、セチトレコ選手が母国に帰れば、命の危険があることはすぐに想像できます。彼の命を守るためには、(母国の出先機関である)大使館職員と接触させないことは常識中の常識だったのです」
四日市南警察署の事情聴取で何が話されたのかは明らかになっていないが、その時点でセチトレコ選手が難民認定申請の意向を示していたならば、同警察署は、セチトレコ選手が難民認定申請できるように、地方の出入国在留管理局につなげるべきだった。しかし、四日市南警察署にいたセチトレコ選手は、翌日には渋谷警察署にいて、大使館職員が説得に当たったというのが一連の流れだ。

五輪関係者に申し入れ

これを受け、全国難民弁護団連絡会議(代表・渡邉(わたなべ)彰悟(しょうご)弁護士)は既に7月22日、「オリンピック・パラリンピック関係者の難民申請対応に関する申入書」を送っている。送付先は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、内閣総理大臣、法務大臣、総務大臣、警察庁長官、都道府県公安委員会だ。
「申入書」は、難民認定申請の意向を示した選手等を、本国大使館の担当者に面接させることは、「あたかも、警察に保護を求めたDV被害者を、加害者自身に会わせ、家に戻るための説得を許すのと同じであり、あってはならない対応」と強く抗議している。
そして以下の3項目を申し入れ事項として明記。
①来日した選手等が難民認定申請の意向を示した場合は、本国大使館の職員と直接の接触をさせないこと。
②地方の出入国在留管理局以外の公的機関が、選手等の難民認定申請の希望を把握した場合は、その申請の機会を保障するか、その機会を保障するための最大限の援助をすること。
③セチトレコ選手の帰国後におけるウガンダ政府による処遇・対応について追跡調査を行うこと。
このように弁護士たちは、帰国後のセチトレコ選手の安否を懸念していたのだ。そしてその不安は現実のものとなった。
セチトレコ選手は7月23日、ウガンダのエンテベ空港に到着するや否や、警察に拘束されてしまったという。
「ウガンダ政府には、彼を拘束する法的根拠や理由があるとは思えません。しかし、独裁国家なら何でも可能です。ウガンダの外務副大臣は『セチトレコ選手を終身刑にすべき』との意見を表明したと聞いています」と児玉弁護士は話す。
セチトレコ選手は、6日目に保釈されたというが、今度は〝実力がないのにオリンピック代表選手団に入れてもらい、選手に支払われる手当をだまし取った〟などという、およそ信じ難い容疑で捜査が続けられ、厳しい立場に置かれているという。

写真(1)=テコンドーの試合を終えひざをつく難民選手団のアブドゥッラー・セディーチ選手(CNS)。IOCによれば、セディーチ選手は24歳。4年前、アフガニスタンで命を狙われ、徒歩でベルギーに逃れた。今大会では前回大会の金メダリストと対戦し、22対20で惜敗した


 

写真(2)=児玉晃一弁護士

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