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第14回  入管収容施設に〝風穴〟を開ける面会活動

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(カトリック新聞2020年9月6日号掲載)
日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」への人権侵害を考える連載第14回は、入管施設に収容されている外国人(以下・被収容者)への面会活動の重要性について。

入管の人権侵害問題が明るみに出たのは昨年6月24日、長崎県大村市にある大村入国管理センター(以下・大村入管)で被収容者が餓死したことがきっかけだった。全国の入管収容施設で餓死者が出たのは初めてのこと。
 「サニーさん」と呼ばれていた40代のナイジェリア人男性は、在留資格がなく、3年7カ月も収容されていた。日本人女性との間に子どもがいたサニーさんは、先の見えない無期限の長期収容生活に区切りをつけるため、命懸けで「仮放免」(注)許可を求める「ハンガーストライキ」(以下・ハンスト)を決行。その途中で命を落としてしまったのだ。
 
収容施設の内と外をつなぐ30分

 入管収容施設内で、被収容者は携帯電話やメールの使用を禁止される。施設内から外部に連絡する手段は、施設内にある公衆電話か手紙だけだ。しかし公衆電話は全ての通話が国際電話扱いのため、国内宛てでも1分間100円の通話料金を払わなくてはならない。
 また、母国の迫害から逃れてきた外国人が、日本の空港の入国審査で、難民として保護を求めた場合、弁護士や支援団体等とつながる機会も与えられないまま、即刻、収容施設に〝連行〟されるケースが後を絶たない。そして、その外国人が入管収容施設内で人権侵害を受けたとしても、訴えるすべはない。異国の地で外部に〝発信〟する相手もいないため、同施設内での彼らの日常は、全く分からない。
 そうした状況に〝風穴〟を開けているのが、入管収容施設で面会活動をしている個人・市民団体等の存在だ。入管の面会受付に置いてある「面会許可・物品授与許可申出書」に被収容者の名前と国籍、性別、そして「面会申出人」の個人情報を記入し、身分証明書を提示すると30分間は、被収容者と面会室でアクリル板越しに話すことができる。
 大村入管では、弁護士の面会以外は入管職員が立ち会い、発言内容をメモするというが、大半の入管収容施設は、新聞記者などマスコミが被収容者に取材する場合以外は、入管職員が面会に立ち会うことはない。面会室にいるのは、被収容者と「面会申出人」だけだ。その30分間こそが、被収容者の現状、「今の生活」を知る貴重な時間となる。被収容者の口からは、驚くべきイジメなどの〝さまざまな声〟が上がる。
 「入管職員が、防犯カメラの死角を利用して、カメラに映らないように、被収容者の体をつねっていた」
 「入管でもらった薬(向精神薬)を飲んだら、いきなり気絶した。倒れた時の記憶がない。怖い。恐ろしい」
 また施設内での自殺未遂や病者・死者が出た等の〝事件〟や、何人がハンストをしているのかなど、入管収容施設内の現実を、被収容者が教えてくれるのだ。
 それと同時に、過酷な日々をぎりぎりの状態で耐えて、生き延びている彼らにとって、わずかではあるが、「誰かに聞いてもらえた」、自分たちのことを気遣ってくれる「施設外の人に知ってもらえた」という安堵感は、精神状態の安定にもつながっているのだ。
 
孤立している被収容者を探す

 大村入管で面会活動をしているキリスト教団体は、地元の長崎インターナショナル教会や、カトリック福岡教区の美野島司牧センターなどであるが、大村入管センター傾聴ボランテイアもそのうちの一つ。これは、大村入管の近くにある植松教会(カトリック長崎教区)福音宣教部の川田邦弘さんが7年前に始めた活動だ。
 ボランティアのメンバーは20余人。ボランティアは、〝研修〟を受けた後、それぞれ、担当する被収容者を決め、定期的に面会に行くのだ。面会時間は、特に被収容者の心のケアに力を入れている。被収容者と共に祈る時間を大切にしていることが、この訪問活動の特徴だ。ボランティアは年3回のミーティングを行って、悩みや課題を語り合い、必要に応じて行政書士の竹内正宣さんがアドバイスを行うという形を取っている。
 特に川田さんが注力しているのは、外部の人とつながれず、孤立している被収容者を探し出すことだ。週に数回、大村入管を訪れているという川田さんはこう話す。
 「誰からも面会に来てもらえていない被収容者の存在を明らかにするために、被収容者の名簿を作り、常に更新しています。名前や国籍、生年月日、健康状態などを書き込むのですが、面会に行く度に、被収容者に『新たに収容された人はいないか。私たちが面会できていない人はいないか。命の危険がある人はいないか』などを確認しています」
 特に昨年6月に大村入管で起きた「ハンスト餓死事件」の直後は、被収容者から「何日も食べていない人がいるから面会に来てほしい」とSOSの電話がよくかかってきたという。
 
被収容者たちの命懸けの声を代弁

 川田さんが入管面会ボランティアを始めるきっかけとなったのは7年前、当時の植松教会の主任司祭から依頼されたことだ。当初は、「自分には無理だ」と感じたので〝適任者〟が来るまでの〝つなぎ役〟のつもりだったのだと振り返る。
 ところが、難民認定申請中の被収容者が、「母国に強制送還されれば殺される」と苦悩する現実に触れたり、また「仮放免」が認められた難民認定申請者の笑顔に出会ったりするうちに、川田さんにとって面会ボランティアや「仮放免」手続きの支援が「ライフワーク」になっていったのだという。
 川田さんが大切にしているのは、「僕たちが、彼ら(被収容者)の立場になったとしたら」という視点だ。
 九州では、外国人支援をしている個人・団体が、「ネットワーク・きゅうしゅう」をつくっている。こうした入管面会ボランティアが得た情報を基に、大村入管等との意見交換会を行い、被収容者に代わって窮状を訴え、収容施設内の環境改善などに尽力している。わずか30分の訪問活動でも、回を重ねれば、着実に「見えてくるもの」がある。それはやがて、「いのち」に寄り添う市民運動にもつながっていくはずだ。
 【注】「仮放免」とは、在留資格が得られず「非正規滞在」となった外国人に対して、入管が入管収容施設外での生活を認める制度。

大村入管で面会活動をしている川田さん

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