日本カトリック難民移住移動者委員会(J-CaRM)は福音に基づいて、多民族・多文化・多国籍共生の社会をめざしています。

第19回 若い世代の視点で世界を変えていく

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(カトリック新聞11月1日号掲載)
日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」への人権侵害を考える連載第19回は、難民認定申請者の「声なき声」を代弁し、社会に運ぶ取り組みを始めた高校1年生の山口由人さんを取材した。

聖学院高等学校(東京都北区)1年生の山口さんは、有志高校生と共に、難民認定申請者らが入管で長期収容されている問題や、仮放免(注)が認められても就労が禁止されている問題を、約30分の短編映画で表現し、10月20日、「高校生のためのeiga world cup2020」(通称・高校生映画甲子園)に応募した。
 山口さんが監督・編集を務めた短編映画『働くって、なんだろう』は、難民認定申請者や仮放免者らへのインタビューを、「『働く権利』を奪われた人々」という独自の切り口でまとめたもの。そして、「働く権利」を奪うことは、経済的に貧困状態に追い詰めるだけではなく、「社会の一員であるという〝帰属意識〟を奪い、孤立させることにつながる」と訴える。

ドイツでの苦い記憶

 山口さんが「難民」に関心を持つようになったきっかけは、父親の仕事の都合で11年間、ドイツに住んだことだ。2015年、山口さんが10歳の時、ドイツにシリア難民が押し寄せて、日常の風景は様変わりしていった。シリア難民が乗った電車が駅に到着すると、物資を詰め込んだダンボール箱を抱えたドイツ人支援者が歓待する姿があった。
 その一方で、「難民に自分たちの仕事を奪われる」と思い込んだ一部のドイツ人たちが、難民の受け入れに反対し、テロ行為に走ったことにより、治安は悪化していった。難民の子どもたちが、公園でいじめられていたり、支援を受けていない難民がホームレスになっていたりする状況も目の当たりにした。「平和的な解決方法があるはずだ」と子ども心に感じてはいたが、具体的な一歩を踏み出すことはできなかったという。
 当時のことを、山口さんはこう振り返る。
 「ある日、道端でシリア難民の人から『パンをください』と言われました。『助けたい』と思う気持ちがありながら、僕は何もできず、その場を逃げたのです。もうちょっと向き合えたのではないかという思いが、僕の中でずっと残っていて、そのまま中学生になり、日本に戻ってくることになりました」
 
誰一人取り残さない

 山口さんにとって転機になったのは、中学1年生の時、授業で国連が提唱する「SDGs」について知ったことだ。これは2030年に向けて国際社会が取り組むべき具体的な行動指針で、貧困問題や気候変動など17の分野別の目標と、169項目の達成基準が盛り込まれた「持続可能(サステナブル)な開発目標」の略称だ。特に山口さんは、「誰一人取り残さない」という「SDGs」の原則が「心に突き刺さった」と話す。
 そして「ドイツで難民に対して何もできなかった自分を変えたい」と強く思い、「行動したい人が、行動しやすくなる社会」をつくりたいと、中学3年生の時、一般社団法人Sustainable Game(以下・サステナブルゲーム)を立ち上げたのだ。
 サステナブルゲームとは、社会のさまざまな課題に対して具体的に取り組む若者を増やしていくことを目的とした活動で、モットーは「愛をもって社会に突っ込め」。社会を、「誰一人取り残さない」世界をつくる〝ゲーム(試合)〟会場と捉え、①社会課題を知る②アクション(行動)を起こす③世界を知る④課題について考える―の四つの過程ごとに、何かできるサービスを提供する。
 その一つが、定期的に開催している「課題発見DAY」というもの。社会人や大学生も参加するイベントだが、社会問題の一つとして「難民」をテーマに取り上げることもあり、参加者と共に外国人への街頭インタビューなどを実施しながら「何が課題なのか」に気付く取り組みだ。

面会活動を開始

 そうした中で、クリスチャンの山口さんは、東京バプテスト教会のミニストリー(牧会者)から、東京・港区にある東京出入国在留管理局(以下・東京入管)に収容されている難民認定申請者への面会を頼まれた。
 「一番初めに面会した被収容者は、壁に囲まれ、小さな部屋に閉じ込められている生活に疲れ、『ちゃんと青空が見たい』と言い、泣き出してしまいました。ドイツだったら難民として保護されているような外国人が、日本では入管に収容されていることに、僕はショックを受け、数日たってもこの出来事が忘れられず、何とかしてあげたいと思うようになったのです」
 難民認定申請者の中には、キリスト教徒であることを理由に、母国で迫害を受け、日本に逃げてきた外国人も少なくない。そうした彼らの姿は、鎖国時代のキリシタン禁令下で迫害・弾圧を受けた信徒の姿にも似ている。
 山口さんは、「自分も生きる時代と場所が違えば、迫害を受けていたかもしれない」と感じるようになり、自分とは関係のない問題ではないと、「家族のような感覚で助けたい」と思うようになったのだ。
 今年の夏休みは、東京入管に何度も赴き、被収容者に面会する活動をたった一人で続けた。
 「彼ら(被収容者)を〝かわいそうな人〟として見るのではなく、彼らが抱いている恐怖や悲しみをどうすれば解決できるのかということに視点を置くと、彼らの希望(願い)を僕自身の中に受け入れることができ、同じ人間として、彼らと未来についての話し合いができるようになります」
 現在、山口さんは、自分にできることの一つとして、個人的にまた仲間と共に、難民認定申請者らの「声なき声」を社会に運ぶ取り組みを始めている。「難民」についてよく知らない日本の人々に、アニメーションなども使った短編動画を作って配信し、入管の面会室等で出会った人々の思いを代弁したり、入管法改定案問題についての要点を簡単に説明したりしている。その一つが、前述の短編動画『働くって、なんだろう』だ。
 「日本社会は〝中立〟が美徳と思っている傾向があります。人権問題でもメディアは中立を保とうとしています。主観のない客観性を良いと思っているのです。でも大切なことは、個人個人が、当事者意識を持って、自分とは反対の立場をとる〝敵〟と対話を進めていくこと。これからも当事者意識をもって、自分の問題として、短編動画などを作って情報発信していきたいと考えています」
 
 【注】「仮放免」とは、「非正規滞在」となった外国人に対して、入管が入管の収容施設外での生活を認める制度。

高校生映画甲子園に応募した短編動画『働くって、なんだろう』の一部

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