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第37回 性的マイノリティーと〝懲罰房〟

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㊲ 性的マイノリティーと〝懲罰房〟
(カトリック新聞 2021年6月20日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第37回は、性的マイノリティー(少数者)であることを理由に入管収容施設で〝懲罰房〟(隔離室)に入れられたフィリピン国籍のパトさん(29)を取材した。

パトさんは、「男性」として生まれたが、女性として生きている「トランスジェンダー女性」。パトさんのように「生まれた時に割り当てられた性別」と、自分自身の「性自認」が違う人々のことを、「トランスジェンダー」と呼ぶ。
国連は、性的マイノリティーの人々の人権を保護するために、各国には「拷問や、残虐で非人道的な、および品位を傷つける取り扱いを防止すること」など主に5項目を守る法的義務があることを明確に指摘している。
しかし国際人権法の流れに逆行するかのように、「トランスジェンダー」であるということを理由に、パトさんは入管収容施設内で1年3カ月もの間、他の被収容者と接触できない〝懲罰房〟などに入れられていたというのだ。

毎日22時間独房に

日本にいる家族を頼って2015年に22歳で来日したパトさんは、「観光」ビザから「家族滞在」ビザへの変更手続きの方法がよく分からず、結果的にオーバーステイ(超過滞在)になってしまった。
19年7月、在留資格のない「非正規滞在の外国人」として東京・港区の東京出入国在留管理局(以下・東京入管)の施設に収容された。東京入管には、男性ブロック(居住区画)と女性ブロックがあるが、パトさんが入れられたのは、何と被収容者と接触ができない〝懲罰房〟だったのである。
〝懲罰房〟は、監視カメラが付いた独房で、他の被収容者から隔離されて監視される。部屋は、トイレ用の穴が床にあるだけの牢獄(ろうごく)のような部屋だ。
5月19日、東京・参議院議員会館で「元被収容者のパトさんによる入管法に抗議する記者会見」が開かれたが、パトさんは〝懲罰房〟に入れられた経緯をこう話した。
「入管職員は、『トランスジェンダー』というものを、メンタル(精神)の病気と捉えているので、私は初日から〝懲罰房〟に入れられてしまいました。でも『トランスジェンダー』は病気ではありません。『トランスジェンダー』として生まれた私は、ありのままの自分自身でいるだけ。それなのに、女性(の被収容者)とも、男性(の被収容者)とも一緒にできないと言われ、隔離されたのです」
通常、被収容者は、大部屋に入れられる。自由時間は、午前中の約2時間と午後の約4時間で合計6時間余り。その中で、洗濯やシャワー、運動場での体操を行う。それ以外の約18時間は部屋の中だけでの生活を強いられる。外から鍵をかけられ、自由に室外には出られないのだ。

ストレスで吐血

しかし、パトさんの場合は、「トランスジェンダー」であるという〝理由にならない理由〟によって、自由時間は1日たったの2時間に制限された。つまり残りの22時間は、独房に閉じ込められていたのだという。
「〝懲罰房〟では、トイレも廊下から丸見えで、しかも私の行動はすべて監視カメラで見られていました。(半年後に個室に移されてからも)自由時間は、他の被収容者に会わないように、時間がずらされていた。私は、入管職員と話すこと以外は、ほぼずっと一人ぼっち。初めのころは泣いてばかりいました」
この隔離生活の中でパトさんは、ストレスからどんどん精神的に弱っていき、「誰かと話したい」という強い思いから、せめて自由時間だけは「男性ブロックでもいいから行かせてほしい」と希望した。しかし、入管職員は「男性と恋愛関係になったら困る」とそれを拒否。入管は、あるときはパトさんを〝女性扱い〟するものの、決して「女性」として認めない。また、「女性ブロックの大部屋に移してほしい」という要望に対しては、パトさんを〝男性扱い〟し、決して許可しなかったのだという。
そうしたいじめが続く孤独な日々。パトさんはある日、ストレスから吐血した。他の被収容者と同様に手錠と腰縄を付けられて外部の病院に連れていかれたが、十分な治療は受けられないまま、入管施設に戻されてしまう。入管職員は、「どうにもできない」と言うばかりで、パトさんを〝気持ち悪い存在〟であるかのような扱いを続けたという。
そして、パトさんにとって体調管理に必要で、常用していたホルモン剤の摂取は一切認められず、徐々に体調を崩していった。
やがてパトさんは、うつ病を発症。持病の強迫性障害の症状が悪化し、自殺未遂を繰り返すようになる。しかも、3回も「仮放免」(入管収容施設外での生活を認める制度)の申請をしても、すべて不許可となった。
こうした生活が、昨年10月6日に4度目の申請で「仮放免」が認められるまで、何と1年3カ月間も続いたというのだ。

 母国では性暴力の被害に

パトさんの母国はフィリピン。性的マイノリティーに寛容な国といわれているが、それでも多数の信者がいる〝カトリック国〟。
パトさん自身は、「トランスジェンダー女性」ということで、4歳の時には母親の彼氏から、また小学校では教師から性虐待を受けたことがあるという。「トランスジェンダー女性」は世界的にも性暴力に遭いやすい状況にあるといわれている。
フィリピンでは2010年以降、少なくとも50人の「トランスジェンダー」等の人々が殺害されているのだ。しかも被害を受けても、〝同じ人間〟として平等に扱われないことが多いという。たとえ、それが殺人事件に発展した場合にでさえも、十分に調査されなかったり、被害統計として適正に処理されなかったりすることが多々あるため、実際の被害実数ははるかに多いのではないかといわれている。
性虐待や性暴力といった苦い体験があるパトさんにとっては、「フィリピンは帰りたくない〝場所〟」なのである。パトさんは今も、日本での生活が続けられることを願い、「在留特別許可」の取得を希望して、頑張って日々、生きているのだ。
しかし、1年3カ月間に及ぶ入管の〝懲罰房〟等でのいじめの体験は骨身に刻まれ、今もその後遺症でパトさんはパニック発作に苦しんでいる。
パトさんは、記者会見を開いた理由をこう述べた。
「『トランスジェンダー』など性的マイノリティーの被収容者への対応について、入管に変わってもらいたいです。私以外にも入管で同じ〝扱い〟を受けている性的マイノリティーの人がいるのです。そして、これからもそうした人たちが収容されることがあるはずです。私たちを〝人間として平等に〟扱ってほしい。まずは、入管の中でどのような人権侵害が起きているのか、広く知ってもらいたいと思ったのです」

写真=性的マイノリティーを象徴するレインボーフラッグ

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