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第24回 入管法改定案―「監理措置」制度の中身

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(カトリック新聞2021年1月31日号掲載)
 日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第24回は、今期の通常国会で提出されると言われている入管法改定案の一つ、「監理措置」(仮称)制度について。難解になるが、その問題点を解説する。

 入管が昨年から準備をしてきた入管法改定案には、①難民申請中の者でも強制送還できるようにする「送還停止効の一部停止」(本連載第3回等)の導入と、②「命の危険」があったとしても母国への強制送還を拒否する者に刑罰を与える「送還忌避(きひ)罪」(同第8回)や、③難民保護の解決につながらない「準難民」制度(同第18回)の新設など、多くの見過ごせない問題がある。
 そこで今回は、入管が〝自信作〞として考案した「監理措置」制度について紹介し、注意を促したい。
 この制度については、読売新聞が昨年9月、難民認定申請者の社会生活を容認するものとして報道した。これによって難民認定申請者らを取り巻く状況は一歩改善されるのだろうという、好印象を抱いた人も多くいた。
 そして、これらの改定案は、昨秋の臨時国会の中で上程されるはずだった。だが、弁護士や支援団体等の激しい反対に遭い上程はかなわなかったという経緯があるが、それでも政府は諦めていないのだという。今期の通常国会で2月に閣議決定を行い、4月から5月に審議されるものと見られているのだ。

恣意(しい)的拘禁と全件収容主義

 入管収容施設は、在留資格がない外国人が無期限で収容されている場所だ。その多くは、①日本人と国際結婚しているのに在留資格がもらえない者②日本に家族がいて生活基盤があるものの在留資格のない者③母国において生命の危険があるために難民認定申請をしている者― などである。
 実は今、日本の入管が行っている彼らへの「無期限の長期収容」は、人権侵害として国連から国際法違反だと認定されている。本連載第17回で紹介しているが、適正な手続きを踏んでいない不公正で過剰な拘束、つまり「恣意(しい)的拘禁」だと断定されたのである。
 さらに、もう一つ問題視されているのが、「全件収容主義」というものだ。「非正規滞在の外国人」それぞれの個別の事情を考慮すれば、本来は在留資格が与えられるべきなのだが、入管は独断で退去強制手続きの対象者と見なせば、「例外なく全員を収容する」という姿勢を貫いている。

目的は「収容」

 こうした問題を背景に今回、入管が新設しようとしている「監理措置」というものは、収容施設外での生活を認める制度。良さそうな響きだが、これには幾つもの〝落とし穴〞が仕掛けられている。
 対象者は①逃亡の恐れがない、そして②前科がない、さらに③難民認定申請中の人、あるいは「難民認定」や「在留特別許可」、「退去強制令書(退令)の取り消し」を巡る訴訟中の人―という三つの条件をクリアした人に限定されている。就労は認められず、生活費の公的援助は3カ月程度といわれる。
 昨秋から弁護士主催の入管法改定案を巡る記者勉強会で、たびたび講師を務めてきた高橋済(わたる)弁護士は、この制度についてこう説明してくれた。
 「『監理措置』が認められるのは、難民認定申請・在留特別許可申請中、または難民訴訟中や退令訴訟中の人だけ。対象が極端に狭い。そしてもし難民認定申請が却下されたり、訴訟が終わったりしてしまえば、結局は、入管施設に長期収容されることになる。いわば『全件収容主義』が形を変えて維持されることになり、恣意的拘禁も解消されずに残ります」
 つまり「監理措置」という新たな〝道〞が加わったとしても、難民認定率0.4%の日本において、退令が出ている難民認定申請者等がたどりつくゴールは、やはり「収容」でしかないというのだ。そして強制送還を拒めば、新設される「送還忌避罪」で逮捕され、刑務所に送られる。
 既存の制度には、病気等を理由に入管の収容施設の外で暮らすことが許される「仮放免(かりほうめん)」がある。「仮放免」許可には保証人と保証金、住所(受け入れ先)が必要で、①就労ができない②国民健康保険に入れない③住所地のある都道府県から出る度に入管の許可が必要―などと厳しい条件が付いている。
 この「仮放免」も改正される方向で、運用の対象は「出国準備」と「入管収容に耐えられないほど健康状態が悪化」した場合に限定され、厳格化される。事実上、「監理措置」一本となる。
 いずれにせよ「監理措置」も「仮放免」も、その判断に司法は介入しない。このことから、全ては入管独自の職権で行うことになり、中立性や公平性、透明性はこれまでと同様に、依然として存在しないのだ。

「監理人」への罰則

 さらに、見落とせないのは、「監理措置」には「支援者」への監督を強化する狙いもあるということだ。新たに設けられるこの新制度では、まず入管が「監理人」を指定。その「監理人」には、対象者の状況について入管に逐次報告する義務が課せられる。
 東京弁護士会会長の冨田秀実(ひでみ)弁護士は昨年12月21日、「入管法に『監理措置制度』を導入することに反対する会長声明」を発表し、こう述べた。
 「(これは)監理人を入官庁の監督下に置くことを意味し、例えば弁護士が監理人となった場合は、守秘義務違反や利益相反の問題を生じさせることになる。また、弁護士以外の支援者が監理人となる場合も、これまでの自然的情愛に基づく支援者と被支援者の関係性が、入管庁の監督権限を背景に、監理する側とされる側という、支配・被支配の関係性へと変容を迫られる。監理措置の導入は支援者らの活動のあり方にまで影響を及ぼすことになる」
 さらに「監理措置」は、入管の権限を拡大させる一方で、本来、入管が行うべき「在留資格のない人に対する必要なケアにかかる負担」を民間に転嫁するだけだと指摘する。
 高橋弁護士も新制度に対する懸念をこう話していた。
 「『監理措置逃亡罪』も新設するので、監理措置対象者が逃げた場合に、監理人は逃亡罪の共犯の疑いをかけられる危険性がある。そうなると、弁護士も支援団体・支援者も『監理人』になることは望まないため、技能実習制度の監理団体のようなものが介入してくる恐れも出てくるのです」
 こうしたことが影響して、これまで積み上げてきた外国人支援者の活動は継続困難となり、徐々に活動は弱体化させられていくことになるのだという。

チリ人の難民認定申請者、ペニャ・ゴドイ・クラウディオ・ベニトさんの作品。入管収容施設で空が見えるのは、運動場だけ

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