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第34回 警察が介入しない入管での死亡事件

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㉞ 警察が介入しない入管での死亡事件
(カトリック新聞 2021年5月23日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第34回は、入管法改定案(以下「政府案」)をめぐる衆議院(以下・衆院)法務委員会での与野党攻防の背景に焦点を当てる。

難民認定申請者の強制送還等を可能にする「政府案」に関して、与党は5月に3度(7日、12日、14日)も「強行採決」の構えを見せた。今国会会期中、今後も「強行採決」の可能性はあり得るが、何としても「政府案」を通過させようと〝執拗(しつよう)な雰囲気〟を漂わせている背景には、自民党の国会対策委員会の強力な圧力があると言われている。
しかし、「強行採決」のうわさが出るたびに、弁護士や支援者ら市民たちは、必死に応戦してきた。「廃案一択」をスローガンに掲げ、強い信念と命を懸ける覚悟で、思い付く限りのさまざまな抗議活動を行い、世論に訴えてきたのである(本連載第33回)。
こうした状況の中、マスコミが「政府案」をめぐる与野党〝対決〟を取り上げるようになり、「入管の長期収容・強制送還」の問題が次第にクローズアップされてきた。そうなると、世論を味方に付けた野党議員は勢いづく。度重なる「強行採決」の圧力に屈することもなく、粘り強い論争を展開しているのだ。

 スリランカ女性死亡事件の真相

しかし、「強行採決」を阻止している要因はこれだけではない。与党が強気になりきれない大きな理由がある。 それは、今年3月6日、名古屋出入国在留管理局(以下・名古屋入管)で起きたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんの死亡事件(本連載第29回・第30回)だ。
ウィシュマさんは経済的事情で学費が払えず、「留学」の在留資格を失い、昨年8月に名古屋入管に収容された。しかし、その後わずか4カ月で体調不良に陥り、何度も入管職員に点滴などの治療を懇願したものの、医療放置されて亡くなったのだが、その苦しむウィシュマさんの姿と、最期の様子が入管の監視カメラに、ビデオ映像として残っているというのだ。
野党議員たちも与党の〝強行採決の暴挙〟に対しては、「ウィシュマさんの死の真相究明なしに、『政府案』の審議には応じられない」という態度を貫いている。そのため、入管の佐々木聖子(しょうこ)長官にビデオ動画の開示を求めているが、その提示をかたくなに拒否。
ウィシュマさんの遺族も「事実を知りたい」とビデオ映像での確認を切望している。しかし、法務省は「保安上の必要性や本人のプライバシーを守る」などと筋の通らない理由で拒み続けている。
ウィシュマさんの面会活動を続けていた支援団体の記録によれば、ウィシュマさんは今年1月29日、嘔吐(おうと)・吐血。入管職員から「迷惑だから」と言われて、共同部屋から「単独房」に移されたという。
「単独房」は〝通常の個室〟というが、入管施設に収容されたことのある、ある難民認定申請者はこう断言する。
「3時間ごとに見回りがあって、部屋に監視カメラが付いている部屋は、〝通常の個室〟ではなく、〝懲罰房〟(隔離室)しかない。ウィシュマさんは病気だったのに〝詐病〟と見なされ、〝罰〟として〝懲罰房〟に入れられ、医療放置されたのではないか。ビデオを見れば、すぐに〝懲罰房〟だとバレてしまうから開示しないのではないか」
ここから連想されることは、これは、権力による〝殺人事件〟だったのではないかという疑念だ。ウィシュマさんの死は、まさに「政府案」の前提となっている「入管の長期収容」が招いた〝惨劇〟であることは間違いない。

虚偽記載の「中間報告書」

また入管は、ウィシュマさんの死亡事件を巡り「中間報告書」を4月9日に公表したが、これは法務省による内部調査に過ぎない。遺体の司法解剖も「警察庁」(内閣府)ではなく、〝内輪〟の「検察庁」(法務省)が担当。死亡事件にも関わらず、警察の捜査が入らないという〝不可解な状況〟なのである。
さらに、「中間報告書」には虚偽の記載があるという。組織ぐるみで隠蔽(いんぺい)工作をしているのではと、衆院法務委員会で野党が追及しているのだ。
ウィシュマさんを診察した外部の総合病院消化器内科では、医師が「(嘔吐により薬を)内服できないのであれば点滴、入院」(2月5日)と診療録に記載しているものの、「内部報告書」には「(彼女から医師に)点滴や入院の求めはなく、同医師から点滴や入院の指示がなされたこともなかった」と、事実に反することが記されている。
同様に、彼女が亡くなる2日前に診察を受けた外部の総合病院精神科では、医師が「仮釈放(仮放免=入管施設外での生活)してあげれば良くなることが期待できる。患者のためを思えば、それが一番良いのだろうが」(3月4日)と明記している。
しかし、「中間報告書」には「仮放免」の記載は一切ない。ウィシュマさんが2月22日から2度目の「仮放免」許可申請をしていたにもかかわらず、名古屋入管は、医師の助言を無視して収容を続けたということになる。
また、支援団体がウィシュマさんとの面会記録を入管に提出していたにもかかわらず、「中間報告書」には、ウィシュマさんの体調が悪い時の記録が反映されていないのだ。

 24年間で21人が死亡

全国の入管収容施設では1997年から今年3月までに、判明しているだけで21人が死亡している。日付不詳も含めると24人。そのうち6人は自ら命を絶つという悲惨なものだ。しかし、入管による医療放置の末、病状が悪化して「手遅れ」になり、「仮放免」後に死亡した案件や、自殺未遂事件も多数起こっていることを考え合わせると、犠牲者の数は膨れ上がるだろう。
座り込みデモに参加したある若者は、こうつぶやいた。
「たとえば会社で24年間に死者が21人出たとしたら、『どんな会社?』って思うはずです。それが入管で起きているって、まさにブラック(闇)です」
こうした死亡事件が多発しているにもかかわらず、これまで誰も責任を取ってこなかった。それほど入管の権力は、司法も介入できないほど絶大なのだ。そして「政府案」は、入管の権力をさらに強化させる内容になっている。
現在、ウィシュマさんの遺族である二人の妹が支援者の協力で来日している。5月16日には、名古屋市内でウィシュマさんの葬儀に参列した。
与野党攻防が増していく中、依然として与党の〝暴挙〟を懸念する弁護士や支援者らは、「廃案」を目指して、「政府案」への反対を訴え続けている。
5月11日から14日までに、「国際法・国際人権法・憲法」を中心とする研究者等124人が、また「移民・難民・無国籍者」分野を専門とする研究者等500余人が、そして全国の弁護士有志300余人など、各分野の専門家が「反対声明」を出している。
日本弁護士連合会(荒(あら)中(ただし)会長)も、あらためて「廃案を求めざるを得ない」と会長声明を発表。ウィシュマさんの葬儀が行われた5月16日には、仙台(宮城)、千葉、東京、名古屋、京都、大阪など、各地でウィシュマさんの死を悼み、「入管法改悪反対」を求めるデモ行進が行われた。
※5月18日、本号印刷直前に、与党が今国会での「政府案」成立を断念するニュースが飛び込んできた。

写真=3月6日、名古屋入管で死亡したウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)

 

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