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第61回 「戦争避難民」をどう保護するのか

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61 「戦争避難民」をどう保護するのか

(カトリック新聞 2022年5月22日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する人権侵害について考えるシリーズ第61回は、欧州連合(EU)における「戦争避難民」の保護について。

ロシアがウクライナに軍事侵攻してから3カ月が経過した。その間、多くのウクライナ人が「戦争避難民」として国外に脱出。日本政府も欧米先進諸国と足並みをそろえて、「人道支援」を展開し、ウクライナからの「避難民」を温かく迎えている。

「戦争避難民」は「難民」ではない?

前回の復習であるが、国連の難民条約においては、「難民」として認められるためには、以下の四つの条件が満たされなければならない。
①「五つの理由」=(1)人種(2)宗教(3)国籍、また(4)特定の社会的集団の構成員、あるいは(5)政治的意見に基づく迫害であること。
②「迫害要件」=迫害を受けることについて「十分に理由のある」恐怖を有すること。
③「国家的保護の要因」=国籍国の保護を受けられないこと。
④「国外要件」=国籍国の外にいること。
そして、①の「迫害の理由」については、(1)人種(2)宗教(3)国籍(4)特定の社会的集団の構成員、そして(5)政治的意見に基づく迫害であること―が「五つの理由」に定められており、戦争・紛争・災害などは「迫害の理由」に含まれていない。
これまでにも、世界各地の紛争や飢餓などの理由で祖国を後にする人々の窮状がたびたび報道されてきた。そして、その時々に救援物資の提供や医療支援などが行われている様子をテレビニュースなどで目にしているので、「戦争避難民」も「難民」と思われがちなのだが、難民条約を字義通りに読むと、いわゆる「戦争避難民」と、難民条約における「難民」(以下「条約難民」)とは区別されている。
では、難民条約に加入しているEU諸国は、どのような制度を運用して「戦争避難民」を保護しているのだろうか。

難民条約を適切に解釈

まず一つ目の方法としては、戦争や紛争等の暴力の理由が、難民条約の①「五つの理由」に当てはまるのかを精査する。そして「戦争避難民」になった理由を適切に解釈することによって、難民条約の枠内で「戦争避難民」を保護できる、と結論づけるのである。
今回のロシアのウクライナ侵攻を例に考えてみると、ウクライナからの「戦争避難民」が生まれたそもそもの理由は、ロシアとウクライナの政治的意見の相違と言えるのだ。
つまり、ロシアからの暴力=「迫害の理由」は、「五つの理由」のうちの5番目、「(5)政治的意見に基づく迫害」と解釈することもできる。
このことから、ウクライナからの「戦争避難民」を「条約難民」として認定することが可能となる。
このように難民条約を「適切に解釈」することによって「戦争避難民」を「条約難民」として保護するのだが、こうした考え方は、これまで国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)がたびたび示してきた見解に根拠がある。
UNHCR保護局長は1999年、以下の見解を打ち出している。
―戦争や紛争の事態においても、難民条約が定める「五つの理由」によって迫害を受ける十分なおそれがあり、また十分に理由のある恐怖のために避難を強いられることがある。その状況下では、現在の「戦争避難民」等の多くは、難民条約を適切に解釈することによって、難民条約の適用対象に含まれる―。
また、2001年のUNHCR文書「難民条約第1条を解釈する」の中では、「危害と迫害理由があれば紛争を逃れて来た者に難民条約は適用される」と述べている。
さらに、UNHCRでは「国際的保護に関するガイドライン12」(2016年)の中で、難民条約における「難民」の定義は、「平時の迫害から逃れる難民」と、「戦時の迫害から逃れる難民」との間に「何らの区別も設けていない」と断じているのだ。
そのためEU諸国などでは、「戦争避難民」も、難民条約の「五つの理由」のいずれかに該当することを前提に難民認定をし、それに基づいて保護しようとしているのである。

EU指令の「補完的保護」

二つ目の「戦争避難民」を保護する方法を見てみる。
EUの場合、EU加盟国が順守すべき法的行為として「EU指令」がある。
その中に「補完的保護」が定められている。この「補完的保護」制度は、出身国等に戻れば「重大な危害」を被る「現実の危険」がある者は、「条約難民」に該当しなくても、保護対象者になる、というもの。
そして、この「重大な危害」の中には三つの項目があり、その一つが「国際又は国内武力紛争の状況における無差別暴力による文民の生命又は身体に対する重大かつ個別の脅威」。
平易に言えば、「補完的保護」制度の保護対象者に「戦争避難民」は含まれているので、この制度で「戦争避難民」を保護できることになる。
難民支援に尽力する弁護士の第一人者、渡邉(わたなべ)彰悟(しょうご)弁護士は、東京都内で開かれた記者勉強会(5月6日)で次のように述べた。
「EU諸国の中でも、『戦争避難民』の保護の仕方はさまざまです。最初から『補完的保護』で『戦争避難民』を保護しようとする国もあれば、まず難民認定審査を行い、難民条約において『戦争避難民』を保護し、難民認定できなかった『戦争避難民』については、『補完的保護』制度で守る国などもあります」
このように、EU各国では、「難民条約」と「補完的保護」制度の両方を最大限に運用して、より多くの「戦争避難民」を保護しようと努めているわけである。

今秋、新たな「入管法整備」も

一方、日本には、「難民認定」制度の他に、「人道配慮」という制度がある。この「人道配慮」制度は、申請理由を限定せずに、特別に在留許可を与えることができる制度だ。「条約難民」に当てはまらなくても、保護の対象となる。
言い換えれば、日本でも「人道配慮」制度で、ウクライナなどからの「戦争避難民」も救える、というわけだ。
しかし、実際にこの制度で在留を許可された者はごく少数。2020年は44人、19年は37人、18年は40人。〝難民鎖国〟のわが国では、難民認定された人数よりも、もっと少ないという現状がある。
そして日本政府はさらに、この「人道配慮」制度を廃止して、今秋の臨時国会に、日本政府流の「補完的保護」制度(俗称「準難民」制度)等の新設を含む「入管法改定案」(政府案)を提出しようと準備を進めているという。
日本政府流「補完的保護」制度を新設することによって「もっと多くのウクライナ避難民を救える」という印象を与えようと宣伝に努めているようだが、実際の日本政府流「補完的保護」制度は、EU指令の「補完的保護」制度とは、全く異なるもの。
この制度を新設すれば、「戦争避難民」を救えるどころか、「人道配慮」制度よりもさらに認定基準が制限され、保護されるべき「戦争避難民」が保護できなくなる仕掛けが施されている、と難民支援に尽力している弁護士たちは危機感を募らせている。
先月(4月21日)、大手のある新聞は、日本政府流「補完的保護」制度を「肯定的」に取り上げる記事を掲載、この制度があればウクライナ避難民を多く救えるという〝政府寄りの記事〟を掲載していた。
しかし、EU諸国の例を見れば、日本でも既存の難民認定制度と、「人道配慮」制度を、国際基準で運用すれば、わざわざ日本政府流「補完的保護」制度を新設しなくても、十分に「戦争避難民」を保護できるのである。
それでは、なぜ政府は新制度の導入を急ぐのか。次回は、そこに焦点を当てる。

メキシコ・ティファナのスポーツ複合施設に滞在する、米国への亡命を求めるウクライナ人たち(4月23日撮影/CNS)

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