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第23回「いじめ」で精神を破壊する

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  日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情がある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」への人権侵害を考えるシリーズ第23回は、入管収容施設に収容され通算7年以上になるパキスタン・カシミール地方出身のムスタファ・カリルさん(57)の後半。

三つの裁判

 茨城県牛久市の東日本入国管理センター(以下・牛久入管)に長期収容されているムスタファさんは現在、国や法務省を相手に裁判を起こしている。一つは、本連載第22回(前号)で紹介した「膝ベルト事件」等を巡る国家賠償請求訴訟で、賠償請求額はたったの1円。金額の問題ではなく、人間の尊厳の問題であることを訴えるためだ。
 そして二つ目は、裁決の撤回を求める裁判だ。パキスタンに強制送還されても、2005年の地震で家も家族も失っているムスタファさんにとって、帰る場所も、介護してくれる者も母国にはいない。何よりパキスタンも、故郷カシミールも戦争状態で命の危険がある。
 三つ目は、「在留特別許可」を求める裁判だ。心身共に衰弱しているムスタファさんにとって、これ以上の無期限長期収容に耐える体力はない。また車いすが必要なムスタファさんにとって、介護をしてくれる家族は日本にいない。どうしても福祉や医療等の行政支援が必要であるため、健康保険に加入できない「仮放免」(注)ではなく、法務大臣の裁量により在留資格を得ることが不可欠だからだ。
 ムスタファさんはこう訴える。
 「僕はこのまま死んでしまうかもしれない。でも、ここ(入管収容施設)で受けたいじめは事実としてぜひ記録に残してほしいのです」

突然のルール変更

 ムスタファさんへのいじめは、5年前の「膝ベルト事件」から始まったが、昨年3月ごろにはこんなことが起きた。
 「僕が自分のシェーバー(電気かみそり)を使おうと思ったら、突然、職員が『使う前にアプリケーション(申請書)にサインをしろ』と言ってきた」 入管収容施設内で
は、被収容者の所持品は入管職員が管理している。毎朝、被収容者がひげをそる時には、各人が自分のシェーバーを入管職員から受け取り、使い終わったら入管職員に返すのが原則だ。
 ところが「規則が変わった」と言う。それでムスタファさんがサインすると、使い終わったらまたサインを求められたという。「自分の物を使うのに、なぜ2度もサインしなければいけないのか?」とムスタファさんは納得できずサインを拒むと、翌日からシェーバーが使用禁止となった。爪切りも同様だった。このサインの規則は、他の人にはなく、ムスタファさんだけのものだったと最近知ったという。
 この「シェーバー事件」以来、ムスタファさんは他の被収容者からシェーバーを借り、爪は自分の歯でかみながら短くしているため、両手の指は深爪や2枚爪で傷ついている。しかし足の爪は、かみ切ることができないため、伸びきったままだ。
 その他、外部からの差し入れ品も、これまで許可されていた物が、突然禁止されるなど納得のいかないことは多い。3年間、支援者に差し入れてもらっていたスパイス(香辛料)がある日突然、禁止された。入管職員は「体に悪い物が入っているから」と、取って付けたような理由を言ってきた。
 背中をかくための「孫の手」も折れてしまったため、外部の支援者が以前と同じ物を差し入れてくれたが、入管職員は「凶器になるから」という理由で、持ち込みを禁止した。
 「長さが30㌢もない『孫の手』が凶器になるなら、僕のつえの方が、もっと太くて長いから、よっぽど危険。入管職員の気分で、昨日OKだったことが今日はダメになる。1日で規則が変わる。ひどい時は朝と夕方でルールが違う。他の人には許可しているのに、僕にだけ許可しない。これは、いじめでしょう」
 また面会に来た友人が差し入れてくれた玄米茶が、3カ月間、ムスタファさんの手元に届かなかったこともあった。

いじめ目的の〝規則〟

 別の種類のいじめもある。ムスタファさんが寒くて、毛糸の帽子を2枚被っていた時のことだ。入管職員は「帽子の2枚着用はダメだ。1枚よこしなさい」と言う。これも「規則だから」と。「1枚捨てた」とムスタファさんが答えると、入管職員はわざわざ、ごみ箱から毛糸の帽子を拾って広げ、帽子の欠けていた縁の部分を出すようにと、訳の分からないことでムスタファさんを問い詰めたという。
 売店で購入した箱ティッシュも、入管職員は横から箱を開けて中身を点検する。他の収容者の箱は、職員がテープを張って元通りに直すのに、ムスタファさんの箱はそのまま放置される。「テープを張ってほしい」と言うと、入管職員は「規則が変わった。テープは張れない」と答える。
 施設内で被収容者が助け合うのは日常の光景なのだが、ムスタファさんが誰かを助けると、入管職員からひどい叱責を受ける。こうした〝差別的で幼稚な〟いじめが何年も続くと、心身の健康はむしばまれていく。
 「僕は日本に来て33年間、警察に捕まるような悪いことをしたことは一度もない。ただ難民認定申請をしただけ。難民の自分が、なぜ入管に収容されているのか理解できない。入管職員は、難民条約を守るために働いているのではなく、ボスの命令に従って、まるで外国人をいじめるためにいるみたいです」
 今年12月2日、被収容者への持ち物検査があった。通常は、入管職員が5分ほど居室内を見回して、持ち物をチェックしながら、禁止されているスマホなどが部屋にないかを確認するのだ。
 しかし、この日は、ムスタファさんだけ〝特別扱い〟だった。10人ほどの職員がムスタファさんの居室に入ってきて、1時間かけてムスタファさんの歯ブラシや衣類、「神様の言葉が書かれたバイブル」など全てを廊下に放り出し、畳の裏まで点検して、違反行為がないと分かると、廊下に出した荷物を部屋に投げ入れ、部屋をぐちゃぐちゃにしたまま立ち去ったという。
 「ショックで3日間眠れなかった。コーヒーものどを通らなかった。もうどうしたらいいのか分からない」と、ムスタファさんは〝心が折れてしまった〟かのように珍しく弱音を吐いた。
 それでもこう語る。
 「入管でいじめられ、僕が負けたように見えても、たとえ裁判で負けたとしても、僕の心は勝っている。僕の心は絶対に負けない。入管に収容されている他の外国人を励ますためにも、僕は諦めない」
 ムスタファさんは死を覚悟して闘い続けている。

【注】仮放免とは、入管の収容施設外での生活を認める制度。

入管施設での長期収容と医療放置、そしていじめで、心身共に痛めつけられ、満身創痍(そうい)のムスタファ・カリルさん(約3年前に撮影)

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