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第48回 「命」の視点を伝えるカトリック教会

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㊽ 「命」の視点を伝えるカトリック教会
(カトリック新聞 2021年11月7日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第48回は、教会の外国人支援活動をけん引する大阪教区の社会活動センター「シナピス」(所長・松浦謙神父)の事務局課長、ビスカルド篤子さんに支援の根底にある理念についてインタビューした。

開口一番、ビスカルドさんはこう語った。
「シナピス事務局では、命に関わる問題が起こったときには、たとえシナピスのニュースレター(『SINAPIS(シナピス)ニュース』)の締め切りが迫っていたとしても、デスクワークを全て後回しにして、まずその人の命を最優先にする姿勢を貫くように心掛けています」
シナピスは2003年、大阪教区の①カリタス大阪②正義と平和協議会③平和の手④難民移住移動者委員会が一つになって組織されたもので、現在もこの4部門の仕事を、専従職員4人とパートタイムスタッフ2人で切り盛りしている。
1990年代から外国にルーツがある移住者に関わり、2000年代からはアフガニスタンやシリアの難民を支えるなど、これまで多くの移住者や難民の支援に取り組んできた。

教会が最後のとりで

シナピスの外国人支援活動の特徴は、行政サービスの枠からこぼれ落ち、「最善を尽くしたが、もうお手上げ」と言われ、支援先を失った外国人の難しいケースが日常的に舞い込んでくることだ。
最近続いているコロナ禍ではこんな緊急事案もあった。
ある日、住む場所を失い野宿生活をしていた難民認定申請中の男性Aさんが助けを求めてきた。身元や背景がよく分からないAさんを、新型コロナウイルス感染防止を理由に追い返すこともできた。
身元や背景がよく分からないAさんに関しては懸念材料が頭をよぎる。しかし、スタッフたちは、目の前のAさんの「命」を最優先にして関わることを決断。衣服も身体も汚れ切っていたAさんを部屋に招き入れ、事情を聞き、シナピスのシェルター(保護施設)をAさんに提供したのだ。
また数週間前には、30年間「非正規滞在」だった末期がんの女性Bさんを預かった事案があった。Bさんは、大腸からの下血が止まらず、激痛にうめき声を上げながら、道端に倒れ込んでいたのだ。
スタッフがBさんを車いすに乗せて病院に搬送。緊急入院先の病院は、Bさんが無保険だったので、検査と最低限の処置を施し、体調が少し持ち直したところでBさんを退院させた。直腸がんで、このまま放置すれば、余命は10日。まさに緊急事態なのである。
そこでビスカルドさんは、大阪出入国在留管理局(以下・大阪入管)にBさんの代理で出頭し、帰国を希望するBさんについて、「国費で母国に送還する」よう、あるいは「在留特別許可を付与して治療できるようにする」よう懇願した。
渋る入管職員にビスカルドさんは次のような言葉で、入管の責任を果たすように迫ったのだ。
「市民の善意では責任を負えないので、Bさんを大阪入管前に置き去りにさせていただきます」
そんなことがあっては困ると焦った入管職員は、翌日からシナピスに通い、Bさんの「送還手続」を行い、数日以内に国費送還する運びとなった。その後、入管は国費でBさんを入院させて手術と治療を受けさせ、飛行機に搭乗できるまでに健康状態を戻した。
こうして、Bさんは無事に祖国へ戻ることができたという。
末期がんのBさんが帰国した後、大阪入管と領事館、またシナピスのスタッフは、互いの労をねぎらい、感謝し合うという〝奇跡的な結果〟を生み出した。この究極の人道支援が実現した理由はどこにあったのだろうか。

 助け合いの輪は国籍・民族を超え

Bさんの命が助かったこの出来事のまず注目すべき点は、シナピスが支援する前に、既にBさんを助け、支えた外国籍住民の存在があったことだ。
あるネパール人は、野宿するしかなかったBさんを自宅に引き取って面倒を見ていた。またあるフィリピン人は自腹を切ってBさんにPCR検査を受けさせ、「コロナ陰性」だと確認した上でBさんをシナピスに連れてきて、同胞から生活費等のカンパを集め始めたのだ。
このように仲間の「命」を守るために、自分にできる最善のことを、実際に行動に移してみせる外国籍住民たちの存在は、常にシナピスを支える大きな力となっている。
次に注目すべき点は、ビスカルドさんもまた、我が事のように、必死に、諦めずに大阪入管と交渉したことだ。過去の数々の緊急事案を振り返りながら、ビスカルドさんはこう話す。
「入管にとってみれば、カトリック教会は〝やりにくい存在〟です。たとえば、『非正規滞在の外国人』が在留特別許可を求めた裁判をして、最高裁判所で敗訴が確定したら、法律上はそれで終了。入管からは『帰れ、帰れ』の大合唱を受けます。しかし、カトリック教会は、法の判断の後でも諦めず、『命』や『人権』、『人間の尊厳』を持ち出し、『強制送還しないでほしい』としつこく言い続けるのです。入管にしてみれば、スッポンみたいに食らいついて一歩も引き下がらないシナピスは、やりにくいと思います」
しかし、大阪入管もカトリック教会への〝抵抗〟からか、ビスカルドさんにちょっとした〝嫌がらせ〟を続けている。
大阪入管で被収容者に面会する際、通常であれば、入管職員の立ち会いはないのだが、ビスカルドさんには21年以上もの間、常に入管職員の立ち会いが付き、面会室内での被収容者とビスカルドさんの会話はすべてチェックされている。

覚悟を決めて隣人愛を実践

シナピスのこうした活動は、小教区とも連携している。大阪教区では、74の小教区全てに社会活動委員会がある。シナピスの職員たちは、各地区の定例委員会に出向き、「命を守る」さまざまな活動を分かち合い、互いに励まし合っている。
そして今では、それぞれの小教区で、信者たちが近隣のベトナム人技能実習生の支援や、難民認定申請者、また移住者の支援を実践しているという。
「困難があればあるほど、連帯の輪は広がる」。ビスカルドさんは、「最後まで諦めずに最善を尽くせば、あとは神様に任せて良いのだという安心感と自信がある」と確信を持って語る。
日本社会の中で〝はいつくばって〟生きてきた外国人たちが、さまざまな緊急案件を通して、シナピスの職員たちの生き方を変え、信仰を深めるきっかけを与えてくれた。これからも、「恐れるな。わたし(神)はあなたと共にいる」(イザヤ41・10)のことばを胸に、全ての人を「共に歩む仲間」として生きていく覚悟だ。

写真=大阪カテドラルで開催されたインターナショナルデーのフィナーレ(2019年10月)。中央がビスカルド篤子さん

 

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