日本カトリック難民移住移動者委員会(J-CaRM)は福音に基づいて、多民族・多文化・多国籍共生の社会をめざしています。

第15回 「家族の分断」という入管の手法

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(カトリック新聞2020年9月13日号掲載)
 日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」への人権侵害を考える連載第15回は、入管が「非正規滞在の外国人」を帰国させる手段の一つとして〝用いる〟「家族の分断」について。

 母国で迫害を受け、日本に逃げてきた難民たちに、なぜ避難先に日本を選んだのかと質問すると、ほとんどの者が次の3点を理由に挙げる。
 まず一つ目は、「日本は観光ビザが取りやすかったから」というもの。一刻も早く危険な母国から脱出するために、観光ビザが取りやすい国を選んで、まず自分たちの身の安全と命を守ることを最優先にした結果の決断だという。
 二つ目は「日本が安全な国だと思ったから」。政情不安でやむを得ず母国を後にする人々にとって、治安の良い国はそれだけで心ひかれるのだろう。
 三つ目は「日本が難民条約に加入しているから」だという理由。難民条約の加盟国である日本ならば、難民を積極的に保護してくれるはずとの期待を込めて判断したのだ。

保護ではなく収容

 しかし実際には、日本の空港に着いた途端、日本を選んだその〝三つの理由〟は即座に裏切られる。難民たちが、空港の入国審査の時に日本に保護を求めた場合、彼らにとっては予想もできない事態が起こるのだ。
 保護されるどころか、入管は、「入国の目的が違う」という理由で、その場で難民たちの観光ビザを無効にする。その瞬間、難民たちは、在留資格のない「非正規滞在の外国人」になってしまうのだ。
 難民認定申請は、日本に入国した後でないと、その手続きができない。日本は難民条約に加入しているので、来日してきた外国人が「自分は難民だ」と言っている限り、彼らを母国に送還することはできないのだ。そこで帰国させるための手段として、彼らを入管の施設に留め置く。国連の拷問禁止委員会から勧告を受けている、非人道的な無期限の長期収容を行うのだ。
 本連載第1回で紹介した難民認定申請中のイラン人、サファリ・ディマン・ヘイダルさんは、入管収容施設で職員からこう言われたという。
 「自分の口から『(母国に)帰る』と言うまで収容する。3年で足りなければ、4年だ」。この言葉は、日本の難民政策の根本姿勢を如実に表している。
 難民認定申請者など、「非正規滞在の外国人」たちに、自ら「母国に帰ります」と言わせるために、入管がよく使うのは、「家族の分断」という〝手法〟である。

入管で生き別れに

 アフリカ系の青年Aさんは、弟と一緒に来日した。両親を既に亡くしていた兄弟は、日本の空港で難民として保護を求めた。しかし前述の通り、二人の観光ビザはその場で無効にされ、空港から、東京出入国在留管理局(東京都港区)経由で、茨城県牛久市の東日本入国管理センター(牛久入管)に〝連行〟された。牛久入管の収容施設では、兄弟はあたかも犯罪者のように別々のブロックに収容され、〝分断〟された。しかし、それがAさんと弟の永遠の別れになってしまったのだという。
 入管施設に収容されて1年半後、Aさんは「仮放免」(注)が認められた。弟の安否を気遣い行方を探したが、牛久入管にいたはずの弟は見つからなかった。4カ月後、やっと弟の消息がつかめた。しかし、弟は既に帰らぬ人になっていたのだという。
 「弟は母国に強制送還されたのか、自ら『国に帰ります』と言ったのか分かりませんが、母国で武力衝突に巻き込まれ、死亡したということです」とAさんは心痛に耐えながら話した。
 牛久入管では、被収容者が別のブロックにいる人に連絡を取りたい場合には、たとえすぐ隣のブロックであっても、わざわざ手紙を書いて、郵便で出す必要がある。Aさんの弟も〝分断〟という処置がなければ、互いに励まし合い、過酷な収容生活を耐えて生き延びることができたのではないだろうか。

「普通の生活がしたいだけ

 また入管収容施設では、夫だけを収容したり、または妻だけを収容したりして、家族を〝分断〟管理することが多い。その結果、離婚するケースも少なくないという。
 トルコ国籍のクルド人女性Bさんは昨秋、難民認定申請を取り下げて、日本生まれの子どもたちを連れて母国に帰る決心をした。難民認定申請中のクルド人の夫が、入管収容施設に何度も収容され、家族が分断される生活を繰り返してきたのだ。Bさんはこうつぶやいた。
 「母国に帰ることはとても危険で、どんな目に遭うか分かりません。殺されるかもしれません。それでも、夫が突然に収容され、いつ『仮放免』で出てくるか分からない生活に、もう疲れきってしまったのです」
 また難民認定申請中のイラン人男性Cさんは、妻が重病だったが、そのような状況下で、入管に収容された。妻は2日に1回通院が必要な状況で、夫の支えがなければ生活ができなかった。妻は毎月、入管に自身の診断書を提出し、夫の「仮放免」を求めたが、なかなか認めてもらえず、収容は長期にわたったという。
 Cさんは「入管は、私たちの命がどうなっても関係ないのです。私たちが死んだとしても、何とも思わないんです」と語る。
 こうした難民認定申請者に「あなた方の望むことは? 願いは何ですか?」と尋ねると、異口同音にほぼ同じ答えが返ってくる。
 「ただ普通の生活がしたい。家族とずっと一緒にいたいのです。安全に、そして安心して暮らしたい。ただそれだけなんです」
 日本には、退去強制令書が出ている「非正規滞在の外国人」に対して、法務大臣が自由裁量で、在留を許可する「在留特別許可」という制度がある。難民認定制度が機能していない日本で、政府や法務省が「非正規滞在の外国人」の人権に関心をもって、この制度を生かす英断さえあれば、彼らの「願い」はかなうはずだ。
 しかし現実には、難民認定制度のみならず、在留特別許可制度も機能していない。それどころか、日本は難民条約に加入しているにもかかわらず、政府は難民認定申請中の外国人を、一定の条件下で強制送還できる法律をつくろうと準備している。
【注】「仮放免」とは、在留資格が得られず「非正規滞在」となった外国人に対して、入管が入管収容施設外での生活を認める制度。

オンラインで開催された絵画イベント「仮放免中の子どもが描く『家族の絆』」(5月5日)。「家族をバラバラにしないでほしい」と、子どもたちは訴えた

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