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第50回 英国の入管収容と施設

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㊿ 英国の入管収容制度と施設
(カトリック新聞 2021年12月12日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第50回は、「人間としての尊厳」と「人権」に配慮した英国の入管収容制度と施設を紹介する。(英国は国境庁だが、本文では「英国の入管」と表現した)

日本では、入管収容施設内で被収容者が職員から暴力を受けるケースが後を絶たない。直近では8月27日、茨城・牛久市にある東日本入国管理センター(以下・牛久入管)で警備員が被収容者のAさんにプロレス技「ヘッドロック」をかけて首を絞め、2週間のけが(首ねんざ)を負わせる事件が起きている。
また東京・品川区にある東京出入国在留管理局(以下・東京入管)の収容施設では、被収容者のBさんが職員から暴行を受け、11月24日、国家賠償請求訴訟を起こした。
Bさんは昨年6月、収容施設内で新型コロナウイルス感染予防対策のために配られた固形石けんのきつい匂いが、ぜんそくに悪影響を及ぼすとして受け取りを拒否した。そうしたところ、別室に連れて行かれ、複数の職員から腰を蹴られたり、後ろ手に手錠をかけられたりするなどの〝制圧行為〟を受け、腰骨を損傷する重傷を負ったという。
日本の入管収容施設では、暴力を受けたり、医療放置されたりする事件はたびたび起きており、犠牲者が出る状況が続いている。

日英で異なる「収容」の目的

難民認定申請者の保護に尽力する児玉晃一弁護士は2012年と14年に、仲間の弁護士と共に英国の入管収容施設を視察し、日本の入管行政との違いに驚いたと言う。
NGO(非政府組織)「入管問題調査会」の特別企画(今年8月)で講師を務めた児玉弁護士は、「英国の視察は9年前のことなので、今の方がもっと改善されているはず」と前置きし、英国の入管収容施設の在り方が、日本のそれとは比較にならないほど人権が守られたものだったと述べていた。
そもそも入管収容施設は、外国人を対象にした刑務所ではない。在留資格を認めてもらえない人、あるいはビザが期限切れなどで失効した人が収容されている場所だ。一言でいうと「単に在留資格を認める1枚の紙切れ(書類)がないだけのこと」なのだが、日本と英国では被収容者への扱いが著しく異なるのだ。
日本の入管収容施設の場合、大部屋に複数人が収容される。部屋には換気扇のないトイレがあり、臭いが部屋に充満する劣悪な環境。自由時間は1日約6時間半で、その間に部屋から出てシャワーや洗濯、運動をする。そして残りの17時間以上もドアは施錠され、被収容者は部屋に閉じ込められた状態になる。部屋に窓はなく、外の景色を見ることはできない。医療体制も整っていない。
こうした環境の根底には次のような目的があると言われている。それは、難民認定申請者など母国に帰ることのできない重い事情のある被収容者を、意図的に3年、4年といった無期限の長期収容することで被収容者に苦痛を与え、自分の口から「母国に帰る」と言わせるため。
つまり、「収容」は〝拷問装置〟のような役割も担っているのだ。
一方、英国の入管収容施設では、収容期間は半年以内がほとんど。収容の目的は、「強制送還すべき人を送還するまでの間だけ留め置くこと」に尽きる。
そして被収容者の40%は難民認定申請者だというが、「移民・難民に関する独立した裁判所」が、「保釈か強制送還か」を決めるまでは、収容中でも「人間としての尊厳と人権が守られること」が大前提となっている。
さらに、もし裁判所から入管収容施設に「保釈決定通知書」のファクスが届いたならば、30分以内に保釈しなければならず、その難民認定申請者等に対しては、国が居住施設を無償で提供し、一定額の生活費を支給するのだという。

 「敷地から出る」それ以外はOK

児玉弁護弁護士によれば、英国の入管収容施設のほとんどは、著名な民間の警備会社が運営し、その社員が入管の所長や職員として勤務している。「入管収容施設の敷地外に出ることはできないが、それ以外の自由を制限する根拠はない」というのが基本理念なのだ。
入管収容施設内には次のような設備が整っている。
①居室には外の景色が見える窓を設置②卓球台等が置いてある共有スペース③理容室(無料)④売店⑤市営体育館並みの設備が整ったジム⑥美術室⑦カラオケ機器・楽器がそろった音楽室⑧信仰生活が送れる各宗教の部屋⑨各言語の本やDVDが借りられる図書室―など。
そのほか、無償でパソコンの使い方を教えるパソコン教室や、英語を母語としない被収容者向けの初級英語教室(無料)もある。また、施設内では、調理補助や清掃など、最低賃金以下だが、有償で仕事をすることも可能だという。
電話の使用に関しては、被収容者が自分の携帯電話を使うことが許されており、また入管内で携帯電話を無償で借りることもできる。電話をかける時間帯や通話時間についての制限はなく、弁護士など外部からの連絡も自由に受けられる。
これに対して、日本の収容施設の場合は、外部への連絡手段は入管収容施設内の公衆電話のみで、国際電話用の高額のテレフォンカードを購入しなければならない。さらに時間制限がある上に、外部からの電話連絡は一切受けることができない決まりになっている。
インターネットについても、日本の入管収容施設では認められていないが、英国の場合は、無料で使えるパソコンを何十台も設置。被収容者が自分のメールアドレスで送受信ができ、一部を除いてウェブページの閲覧も可能となっているのだ。
面会については、日本では平日のみで、遮蔽(しゃへい)板がある面会室で1回30分以内と制限がある。一方、英国では365日面会可能で、制限時間はなく、遮蔽板なしに話すことができ、子どもと遊ぶスペースもある。
そのほか、英国では、医療も無料法律相談も充実しているという。

収容環境の改善は第三者機関を交え

日本の入管収容施設で、「医療放置問題」などについて被収容者が抗議をすれば、当事者は職員から暴行を受け、〝懲罰房〟(隔離室)に閉じ込められるのが常だ。
しかし、英国では、①国籍別グループや少数者グループ等の各代表者で構成する12人の被収容者と②英国の国境庁職員、そして③施設運営会社(警備会社)の全ての部門の担当による「3者ミーティング」を毎週行い、状況を把握。
また各棟の被収容者の代表者とスタッフが協議する全体ミーティングもあり、その議事録はインターネット上で公表される。さらに、全ての被収容者と担当者との個別ミーティングも週1回以上行われる。
児玉弁護士は「きめ細やかなミーティングで、かなりの問題が解消し、風通しも良くなる」と評価する。
そのほか、英国には、HMIPという独立した第三者機関があり、入管収容施設だけではなく、刑務所や拘置所など、「人が拘禁されている全ての施設」を視察し、改善点について勧告し、また実際に改善されたかどうかをチェックする制度が整っているのだ。
日本の入管収容施設と比べると、英国の入管収容施設は「人権」に配慮されているが、それでもHMIPによって、161項目の勧告を受けたというのが実情で、それほど厳しい審査が行われているのだという。
日本の入管収容施設も英国並みに改善していくことができるのかどうか。これについて、児玉弁護士は次のように話していた

写真=英国のハモンズワース入管センター。収容施設内にはさまざまな設備がある。左から、理容室(無料)、図書室、音楽室(写真提供=児玉晃一弁護士)

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