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第55回「ウクライナ難民」から考える未来像

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55「ウクライナ難民」から考える未来像
(カトリック新聞 2022年3月20日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第55回は、ロシアのウクライナ侵攻に伴う「ウクライナ難民の受け入れ」について。

ロシアが今年2月24日、国際法に違反してウクライナへの軍事侵攻を開始したため、「日常」を一瞬で奪われたウクライナでは、200万人以上が難民として国外に脱出した(3月9日時点)。
日本に留学後、そのまま日本で就職したウクライナ人男性、オレクシイさんはこう話す。
「ウクライナにいる母は、シェルターに避難していて、私は毎日、母が生きているのかどうか心配で、SNS(会員制交流サイト)を使って確認しています。母の声と共に、いつも爆撃音が聞こえてくるんです」
ウクライナの街がロシア軍によって破壊され、また市民が殺される様子や、ヨーロッパ最大のウクライナの原子力発電所がロシア軍に占拠された衝撃的な映像が、連日のように世界各地で放映され、日本でも「ウクライナ難民」への関心が急速に高まっている。
松野博一官房長官は2月28日、ウクライナから避難した難民認定申請者や、ウクライナ侵攻に反対し迫害の恐れがあるロシア人らに対して「難民条約上の難民として認められなくても、人道上の配慮が必要と認められる者については在留を認める」との方針を示した。
そして岸田文雄首相は3月2日、ウクライナからの避難民を受け入れると発表。それを受けて、愛媛県の中村時広知事も翌3日、国際社会と連携し、愛媛県としてウクライナ避難民の受け入れを表明した。

「難民」枠外での受け入れ強化を

一方、民間でも難民支援団体のメンバーらが立ち上げた「日本からウクライナを想(おも)う市民の会」が3月3日、東京都内で緊急記者会見を開催。プロジェクト「ウクライナからの難民のために、日本が取れる7つの拡充アクション」を立ち上げたこと、それを後押しするオンライン署名「#ウクライナ難民の多様な受け入れに賛成します」を始めたことを発表した。
緊急記者会見では、在日ウクライナ人のオレクシイさんや、NPO(特定非営利活動)法人WELgee(ウェルジー)代表理事の渡部(わたなべ)カンコロンゴ清花(さやか)さんらが、プロジェクトの発起人として登壇。ウクライナからの避難民を受け入れるために日本政府に要請したい「7つの提言」を紹介した。
WELgeeの渡部さんは、日本で難民認定申請中の外国人などを企業等とつなげて、「難民」が日本に定住できるようにと「キャリア支援」をしている社会起業家だ。
「提言」の1から3までは、①在日ウクライナ人の家族を日本に呼び寄せる②ウクライナから国外に避難した人を日本に受け入れる③ウクライナの国内避難民を日本で保護する―ことであるが、「これらは、日本政府が既にウクライナ難民受け入れで表明したこと」(渡部さん)でもある。
だが、残りの四つの提言は、ウクライナからの避難民を、「難民認定」等の枠組みの中だけで保護するには限界があることを見据えた上で、より多くの避難民を受け入れることができる方法として、留学生や労働者としての在留資格でも来日できるように、日本に既に存在する留学生等の制度の枠組みを広げるように、政府に求めるものだ。
具体的には、「対象国の指導者層となることが期待される優秀な若手行政官等を日本の大学院に留学生として受け入れる」という、無償資金協力による留学生受入事業(人材育成奨学計画)の活用。これまで、この制度を利用して来日した留学生は5千人以上いることから、提言④ではその対象国にウクライナを加えることを明示。
提言⑤では、日本にある「国費外国人留学制度」を拡充し、既に来日しているウクライナ人や、隣国等に逃れたウクライナ人を、「難民」ではなく、「留学生」として受け入れることができるように申請対象に加えることを挙げている。
さらに提言⑥では、「ウクライナ人の『留学生』受け入れ表明」をした日本語学校や大学等に対して、資金援助の検討を要請。
そして最後の提言⑦では、日本企業がウクライナ避難民を雇用できるように在留資格を変更・拡充することを政府に求めている。日本企業が彼らを雇用した場合、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で定住・就労することが可能となるからだ。
こうした「7つの提言」を発表した同プロジェクトでは、現在10万人を目標にオンラインで署名も募集中だ。集まった署名は、「7つの提言」と共に政府に提出することを計画している。

国内で難民への関心は高まるか

緊急記者会見に同席した同プロジェクト賛同人の一人、小説家の温又柔(おんゆうじゅう)さんはこう語った。
「『難民』とは、もともとは普通の人々。戦争が起きた時、自分と同じ普通の人が、母国を追われるようになる。そうなった時、普通の人の一人である私に何ができるのか。そんな切実な思いになります。まず関心を持ちたい」
今回のロシアのウクライナ侵攻は、日本の人々にも「難民」の存在を身近に、かつ分かりやすい形で伝えることになったが、日本で何度も難民認定申請をし、現在も申請中のあるイラン人男性は複雑な心境をこう吐露した。
「日本が『ウクライナ難民』を受け入れることは良いことです。ただそれで終わらせないでほしい。既に日本で難民認定申請中の外国人が十年以上たっても在留資格がもらえず、就労することも禁止され、困窮している状況が続いています。難民の受け入れを、民族や国籍で線引きしないでほしい。一人一人を同じ人間として見てほしいです」
実際、日本の入管は、長年日本で暮らすこうした難民認定申請者に対する〝保護の姿勢〟は見せていない。
「7つの提言」のプロジェクトの渡部さんも「ウクライナ難民への関心があらゆる難民への関心になるようにつなげていきたい」と話している。身近なところに隠れた存在となっている〝難民〟たちに目を向けることも忘れてはならないだろう。

緊急記者会見で「ウクライナ難民」の受け入れを訴える、左から温又柔(おんゆうじゅう)さん、渡部(わたなべ)カンコロンゴ清花(さやか)さん、オレクシイさん

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