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第32回 入管が子どもたちの夢をつぶす

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㉜ 入管が子どもたちの夢をつぶす
(カトリック新聞 2021年5月2日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第32回は、入管によって家族をバラバラにされ、将来の夢までもつぶされていく子どもたちの現状。

難民認定申請者など、「非正規滞在の外国人」を強制送還すること等を可能にする「入管法改定案」(以下「政府案」)の審議が今、衆議院法務委員会で続いている(4月27日時点)。与党は5月中旬の採決に向け躍起になっているが、「排除」の対象となっている者には、大人だけでなく、子どもたちも含まれている。
家族で日本に逃れてきた外国人などを入管が収容する際には、親子、夫妻、きょうだいなどを別々の入管施設等に入れたり、家族の一人だけを収容したりしている。そして、精神的に弱体化させ、あらゆる圧力を与えて、彼らが日本に残ることをあきらめさせようとするのが常とう手段のようである。
それは幼い子どもたちにも向けられる。今、将来の夢を奪われた「仮放免」中の子どもたちも、この難局に救いを求める声を上げ始めているのだ。
「仮放免」は、「非正規滞在の外国人」に入管施設外での生活を認める制度だが、子どもたちは、①義務教育年齢を過ぎてもアルバイト等の就労も就職もできず、②国民健康保険に加入できない。③通学・修学旅行・各種全国大会出場のために居住地のある都道府県から出る場合も、入管の「一時旅行許可」がない限り移動できない、という制限がついて回る。

 入管施設から父が突然の強制送還

4月22日、東京・参議院議員会館で「入管法改悪反対! 緊急院内集会~移民・難民の排除ではなく共生を~」(以下「院内集会」)が開催されたが、そこで高校3年生のAさん(ペルー国籍)は、自身の体験と苦労をこう吐露した。
「僕が中学1年の時、父が突然、僕たちの前から消えた。(父の入管収容は2回目で)僕の体の一部が取られたようで、すごく苦しかった。僕は父に会いたくて何回か一人で父の部屋に入ったことがあった。ある夜、母が電話を受けながら大きな声で泣いていた。僕と姉は起きて母の部屋に行った。父がペルーへ強制送還されたというのです。僕は力が抜けて、その時からもう何もしたくなくなった」
Aさんはそのショックから、所属していた野球部もやめ、勉強をする気力も失い、家でも一人でいるようになったという。
強制送還で父を奪われて約5年が過ぎ、家族が一緒にいられる日常が懐かしく、今ではとても大切な日々だったと実感していると心境を話す。そして、「僕たちみたいに困っている人たちを助けられる人になりたい」と、現在、大学進学を考えているが、今、Aさんの母親にも「退去強制令書」が出ているというのだ。Aさんの切実な訴えは続く。
「僕が『母さんまで奪わないでください』と言ったとしたら、(入管は)『母親と一緒に子ども二人も出ていけ』と言うのでしょうか。日本で生まれ育った僕たちが日本で生きることを望むことは悪いことなのですか。ペルーへの送還を拒んだら、(「政府案」では)犯罪者になるんですか。僕たちを助けてくれる人たちは共犯者になるんですか。これはおかしいです。僕たちと同じ立場にいる子どもたちがたくさんいます。僕たちから両親を奪わないでください。家族を一緒に住まわせてください」

 「子どもの最善の利益」

どんな子どもも、自分を守ってくれる親がいてこそ、安心して成長できるというものだ。こうした「子どもの最善の利益」や「家族結合権(家族が同じ場所で暮らす権利)」を守ることを、国際法は定めている。つまり入管が、Aさんの家族をバラバラにすることは、国際法違反なのだが、「政府案」はそれをさらに加速・強化することを目的にしている。
実際に、子どもたちの中には、父親が「仮放免」の延長手続のために入管に行く朝、父親の突然の収容や強制送還を恐れて、「お父さん入管に行かないで」と泣き叫ぶ子どもも多いと聞く。
クルド人のBさん家族(トルコ国籍)が体験した出来事も衝撃的なものだ。日本の空港の入国審査時に難民として保護を願ったところ、家族は観光ビザを無効にされ、父親は空港の一室に留め置かれた後に東日本入国管理センター(茨城県牛久市)に収容。母親は東京出入国在留管理局(東京都港区)に、そして母乳がまだ必要な乳飲み子は母親から引き離され、別の場所に連れて行かれた。家族をバラバラにすること、親子を引き離すことがどれほど残酷な仕打ちであるか、分からない者はいないはずだ。乳飲み子に与えた影響も計り知れないことだろう。

子どもの夢砕き帰国促す入管職員

このほか、「院内集会」ではクルド人の大学生Cさん(トルコ国籍)が次のように体験を語った。10歳の時に来日したCさんは難民認定申請中だが、在留資格が得られず「仮放免」の身だ。
「高校1年の時、初めて入管に『仮放免』の延長手続に行った。その時、インタビュー(面接)でいろいろ質問され、学校のことも聞かれ、全て答えましたが、(入管職員は)『あなたは日本で学校に行っても就職できない。時間とお金の無駄だから国に帰って』と言われ、大変ショックだった」
Cさんは入管職員の言葉の意味が理解できず、「成績を上げて、良い成績表を持っていけば、認めてくれるはずだ」と思い、一生懸命に勉強した。そして良い成績表を持って、再び「仮放免」の延長手続に行った入管で、職員ははっきりとこう言い放ったという。

 「どんなに頑張っても意味がない」
Cさんは、学校をやめることさえ考えたが、これまで苦労をしながら支えてくれた親の気持ち、また今までの日本での体験を意味のあるものにしたいと、高校中退を思いとどまったという。夢は、日本で難民として認めてもらい、国連職員になって日本社会と世界のために貢献することだ。
こうした子どもたちの訴えを受け、「移住者と連帯する全国ネットワーク」の鳥井一平代表理事は「入管がこの社会の在り方、人の人生の『生き死に』を決めることがあってはならない」と憤りをあらわにする。また「日本弁護士連合会」の丸山由紀弁護士は、「院内集会」で、「政府案」に反対する理由として「あまりに人権を軽視した法案で、人権保障という法律の基本原理の観点から見過ごせないものだからだ」と訴えていた。

写真=日本カトリック難民移住移動者委員会も呼び掛け団体となった「入管法の改悪」に反対する署名は、10万6792筆集まった。4月22日、「移住者と連帯する全国ネットワーク」と「難民問題に関する議員懇談会」を通して法務省に提出された

 

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