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第28回 母国で殺されるか、入管に殺されるか

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(カトリック新聞2021年3月21日号掲載)
 日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第28回は、現行の入管法を変えるために提出されている二つの法案について。

 今国会で4月中旬から審議される予定の入管法改定案。現在、これには二つの法案が提出されている。一つは、政府が提出し、2月19日に閣議決定した法案(以下「閣法」)。そしてもう一つは、その前日、2月18日に野党6党が〝対案〞として国会に提出した法案(以下「議員立法」)である。両法案共に、在留資格がない「非正規滞在の外国人」についての対応に関するものだが、その目的は全く異なるものになっている。
 政府提出の「閣法」は、難民認定申請者であっても複数回申請した者を送還できるようにしたり、帰国を拒む者に刑事罰を与えるなどして、「非正規滞在の外国人」の送還を促進することが目的となっている内容だ。この法律により外国人への「管理をさらに強化」し、「徹底的な排除」が可能になる。
 これに対して、野党提出の「議員立法」は、難民条約の国際基準に合わせて「保護すべき難民」をきちんと保護し、また日本に家族がいるなど、生活の拠点が日本にある移住者については、「在留特別許可」の対象を拡大して救済するというものだ。

国内の〝難民〞を限りなくゼロに

 「閣法」の全容は、2月26日、超党派の議員で構成される「難民問題に関する議員懇談会」が始めた「入管へのヒアリング(聞き取り)」によって明らかとなった。
 当日のヒアリングで、入管の片山真人(まこと)参事官は、「日本には『退去強制手続』をしても、(母国への)帰国を拒む〝送還忌避(きひ)者〞が約3千人いる」として、この者たちを対象にした法案だと次のように明言したのだ。
 「今回の法案は、(強制送還を拒否する)〝送還忌避者〞と(入管収容施設での)長期収容の問題を解決する内容です。送還忌避と長期収容は一つの〝特効薬〞で解決するものではない。幾つかの政策を組み合わせて〝パッケージ〞でこの問題を解決していこうというのが、この法案のコンセプト(構想)です」
 これは、言い方を変えれば、強制送還を拒否する難民認定申請者等に対する〝追い出し作戦〞。具体的には、以下で述べる三つのパターンへの〝対応策〞を用意しているのだと言う。
 ①難民条約で難民認定申請中の者を母国に強制送還できないのなら、原則として3回目以降の難民認定申請手続中であれば強制送還できるようにする(送還停止効の一部停止)。
 ②現在、イランのように他国から強制送還されてきた国民についての受け入れを拒否している国がある。こうした国の対象者にはまず「退去強制令書」を出し、その後、退去命令期限を示して、それまでに帰国しない場合には刑事罰を与える。簡単に言えば、難民認定申請者を「犯罪者」に仕立て上げる「退去命令違反罪(送還忌避罪)」を新設。
 ③強制送還のために民間航空機に搭乗させた対象者が機内で暴れ、機長から搭乗を拒否されて送還できなかった場合は、暴れた対象者にやはり刑事罰を与えて、「犯罪者」とする(②と同じ罪)。
 つまり入管は、在留資格のない難民認定申請者等に刑事罰を与えるか、無理やり強制送還するなど「幾つかの対応策を組み合わせての〝パッケージ作戦〞」で、その数をゼロにすることを目指す。そして入管施設での長期収容問題を解決していくというのだ。
 しかしこれについて、「難民問題に関する議員懇談会」会長の石橋通宏(みちひろ)参議院議員は、端的にこう表現した。
 「日本は難民認定率が0・4%と極端に低い。政府案(閣法)は、残りの99.6%を追い返すための法案にすぎない」

強制送還後に死亡

 「史上最悪の入管法改悪」とも称される今回の政府提出法案に対して、難民として認めてもらえない「99.6%」の人々の胸中は、「母国で殺されるか、入管に殺されるか。どちらかだ」という不安と絶望に揺れ動く。
 そのうちの一人、難民認定申請中のイラン人男性Aさんは、ムスリムからキリスト教に改宗したため、母国では死刑対象者。その男性は「日本でどうしても難民認定してもらえないから、母国に帰ろうと考えたことも何回かある。でも最近、イランにいる家族から『秘密警察がまだお兄さんの行方を探している』と聞かされ、怖くなった」と、日本にとどまる決断をしたという。
 また反政府組織で活動し、命を狙われたイラン人の男性Bさんは、過去3回の難民認定申請が不認定。Bさんはこう話す。
 「イランで拳銃を2回(こめかみに)突き付けられたことがある。入管職員にそれを説明すると、『その時の写真はありますか?』と質問された。自分が殺されそうになっている時に、『あっ、ちょっと待ってください。写真を1枚撮らせてください』と頼めというのでしょうか?」

制度を国際基準に

 こうした「送還を拒否する者が悪い」と考える「閣法」に対して、野党6党が提出した「議員立法」では、入管施設の長期収容問題の根本原因は、「保護されるべき重い事情を抱えた外国人に在留資格を与えていないこと」にあると考え、正反対の立場をとっている。
 「議員立法」の最大の特徴は、国際基準に合わせたもので、入管法から「難民認定法」を切り離したことにある。そもそも、「難民を保護する法律」と、いわゆる「外国人を管理する法律」を一緒にして、それらを同一の組織が管轄していることにこそ、大きな問題があるのではないか。
 本連載第26回で紹介した「強制送還未遂事件」では、本来、難民を保護すべき部門が、あろうことか強制送還を執行する部門に次のように報告していた事実がある。「明日、(難民不認定処分に対する)異議申立が棄却される」と。つまり、難民を保護すべき部門が、「強制送還の準備をしろ」と送還執行部門に連絡をしていたということだ。
 そのため「議員立法」では、新法「難民等の保護に関する法律案」を設け、①入管が難民認定を行うのではなく、②専門家による「難民等保護委員会」(独立行政委員会)を設置し、③難民条約の国際基準で、保護されるべき難民を保護する制度にしている。
 また「議員立法」の「入管法改正案」では、入管施設における収容については、④裁判所の判断で収容が必要だと認められた場合にのみ収容ができ、⑤収容期間は上限6カ月とする。
 そして長年日本に住み、生活の拠点が日本にある外国人や、家族が日本にいる外国人等への「在留特別許可」については、「閣案」が対象者を限定し、現在よりもさらに許可を出さない制度設計にしているのに対して、「議員立法」では、⑥国際法で認められている「子どもの最善の利益」や「家族結合権(家族が同じ場所で暮らす権利)」を守り、「在留特別許可」を認める―などとなっている。
 現在、難民認定申請者等を支援する弁護士や活動団体、市民らが、政府提出の「閣法」を廃案に追い込み、野党提出の「議員立法」を成立させようと、広く世論に向け、アピールのための情報発信に努めている。
 日本カトリック難民移住移動者委員会(委員長・松浦悟郎司教)も呼び掛け団体となって、「入管法の改悪」に反対する署名活動を始めている。(4月18日終了済み)。

月18日、国会に〝対案〟となる「議員立法」を提出した野党6党と弁護士ら

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