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第27回〝入管法改悪〟への抗議デモ

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(カトリック新聞2021年2月28日号掲載)
 日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第27回は、関東の入管施設に収容されている難民認定申請者らを支援する市民たちが実施した〝入管法改悪〟反対の抗議デモ(2月17日、東京)を取材した。

 寒の戻りで強い北風が舞う中、関東の入管施設の被収容者らを支援する市民ら百人余りが2月17日夕、東京・霞が関の法務省前に集結。マイクを片手に1時間半ほど抗議デモを行い、さらに、日比谷公園を出て〝入管法改悪〟反対のシュプレヒコールを上げて夜の銀座を練り歩く。抗議のデモ行進は周辺繁華街で約1時間続けられた。

「難民」らを追い出すのが目的?

 入管はこれまでも、正真正銘の「難民」や「移住者」らに在留資格を与えずに、入管施設での長期収容や母国への強制送還を行うなど、外国人への人権侵害を続けてきた。しかし、2月19日、政府が閣議決定した「入管法改定案」は今まで以上に難民たちへの「管理」と「排除」を強めるものになっている。
 今回の入管法改定案には、母国に帰ると命の危険がある難民認定申請者らを、①母国に送還できるようにする「送還停止効の一部停止」の導入や、②母国への帰国命令を拒否した場合に刑罰を与える法案の新設などが盛り込まれている。これは国際基準からみても、また日本が加入する難民条約の精神からも逸脱する内容だ。
 こうした法案に反対する市民たちが、閣議決定を前に何とか阻止しようと抗議のデモ行進を行い、「入管法改悪反対」の横断幕やプラカードを掲げて、難民認定申請者や日本にいる「非正規滞在の外国人」の人権侵害を街行く人々に訴えたのだ。
 デモの参加者は、東京入管(東京出入国在留管理局)や、茨城県にある牛久入管(東日本入国管理センター)の収容施設で被収容者への面会活動をしている団体や個人。彼らは日頃から、被収容者の窮状を聞き、物心両面で支えてきた。また被収容者の「仮放免」(注)が認められた後も、日常のきめ細やかな生活支援を続けている人たちだ。支援者らは入管による外国人に対する人権侵害について被収容者から聞いて熟知している。

精神的に追い詰め諦めさせる

 牛久入管に収容されている外国人の中には、収容が最長7年になる者もいる。呼び掛け団体の一つ、「SYI収容者友人有志一同」の柏崎正まさ憲のりさんは、こう話す。
 「入管施設での長期収容は、『あなたが母国に帰るまで無期限に収容しますよ』と精神的に追い詰め、(日本にいることをあきらめさせるための)〝送還の道具〟として使っている。被収容者の中には、傷病者が多く、手術が必要な人もいる。新型コロナウイルス(以下・コロナ)に感染すれば重症化しやすい彼らに、『仮放免』を認めず、収容し続けている。その中で、今回の集団感染が起きたのです」
 東京・品川区の東京入管ではPCR検査の結果、2月17日時点で、被収容者39人、職員5人がコロナに集団感染したことが判明。東京入管では昨年8月に被収容者から初のコロナ感染者が出ている。それ以後、弁護士や市民団体が、被収容者を直ちに解放するようにと訴えてきたにもかかわらず、東京入管は具体的な対策を講じることなく、そのまま複数の人を同室に収容し続けてきたのだ。
 抗議デモの前日(2月16日)には、コロナに感染した被収容者(難民認定申請者)が本紙編集部に電話をよこし、こう訴えた。
 「『仮放免』申請が却下された。外に出られたら、自分の身を守ることができたのに、ここ(入管収容施設)にいたから、コロナに感染した。昨日、部屋の皆が頭が痛いと言い出した。PCR検査をしたら、全員がコロナ陽性だった。自分はたくさんの持病があるのに、コロナに感染したから、とても怖い。でも、病院には連れていってもらえないよ」
 抗議のデモ行進には、間もなく『ある日の入管~外国人収容施設は〝生き地獄〟~』を出版する織田朝日さん(本紙連載第6回紹介)も参加し、入管に対する憤りをこう語った。
 「(集団感染は)入管と法務省の責任。被収容者は栄養も足りず、健康状態も悪い。コロナに感染すると、本当に危険な状態で、命に関わる問題。今、彼らを解放しないといけないのに、今度の入管法改定案は、長期収容がいけないなら、彼らを送還できるようにしよう、刑事罰にしようというもので、罰則、罰則、罰則ばかりです」

国際基準から逸脱

 ムスリムからキリスト教に改宗し、母国に送還されれば死刑が確実となる、ある難民認定申請中(仮放免)の男性は危険を冒してまでデモ行進に参加した訳をこう話す。
 「顔を出してデモに参加するのは、(公安警察が見ているので)正直怖い。でも、苦しんでいる被収容者と仮放免者の代弁をしなければと思った。入管法が改悪されたら、自分もその犠牲になる。今、声を上げなければと思ったのです」
 日本では、「非正規滞在の外国人」は、「入管収容」か「仮放免」かのどちらかの生活を強いられる。難民認定申請者をはじめ、日本で生まれ育ったにもかかわらず在留資格のない子どもたちもだ。実際に、親に在留資格がなかったために、生まれた時から成人になった今でも身分保障がされていない状態なのだ。
 「人生で一度も在留資格をもらったことがない」という20代の若者もいる。日本人配偶者がいても、「配偶者ビザ」がもらえない外国人も多いのが、日本に暮らす「非正規滞在の外国人」の実情なのだ。
 デモに参加したある外国人は、日本政府の矛盾をこう訴える。
 「世界ではロヒンギャは難民。しかし日本は同じロヒンギャでも駄目。日本では15年以上、複数回も難民認定申請をしても『難民』として認めてもらえないロヒンギャの人が数多くいる。これはおかしいことです」
 また、別の参加者はこう話す。
 「日本では、いまだに〝難民〟のイメージは、テレビで見る難民キャンプで飢餓に苦しむ貧しい子どもたちや女性の姿なのかと想像してしまいます。入管職員の中に『飛行機で来る人が難民なの?』と疑問に思う人もいるくらいですから」
 難民条約で定義される「難民」とは、貧富の差や肩書に関係なく、「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること、また政治的意見を理由に、迫害を受けている者、あるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃げた者」を指す。
 入管法改定案では、「難民」を日本から追い出すための〝仕掛け〟が散りばめられている。それに対して2月18日、野党6党が「対案」として「難民等の保護に関する法律案」と野党版「入管法改正案」を国会に提出した(本連載次回紹介予定)。

 野党は、入管法改定案の審議(4月~5月予定)が始まるまでに、国際基準に合わせた「対案」の意義を広く国民に知らせ、世論を高めていきたいと考えている。
 また、今回の閣議決定に対しては、即座に「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)が反対共同声明を、「難民支援協会」や「アムネスティ・インターナショナル日本」等が意見書を発表、「収容送還問題を考える弁護士有志の会」も記者会見を開き、抗議の意思を示している。

 【注】「仮放免」とは、「非正規滞在」となった外国人に対して、入管が入管収容施設の外での生活を認める制度。就労は禁止され、国民健康保険にも加入することができない。

2月17日、〝入管法改悪〟反対のシュプレヒコールを上げて夜の銀座を練り歩く抗議デモ参加者たち

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