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第38回 国家による「間接的殺人」

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㊳ 国家による「間接的殺人」
(カトリック新聞 2021年7月11日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第38回は、深刻化している「在留資格がない外国人」への医療放置の問題について。

入管収容施設内での医療放置の問題については、これまで何回も触れてきたが、これは明らかに〝殺人〟を思わせる入管の〝意図的行為〟であろう。
1997年からの統計しかないが、現在、分かっているだけでも、医療放置等で命を落とした外国人は、24年間で21人(このうち自殺者が6人)にも上る。何と、国内の入管施設のどこかで、ほぼ毎年一人が亡くなっているということだ。
最近では、今年3月に名古屋出入国在留管理局の収容施設内で医療放置されて亡くなった、スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんの死亡事件(本連載第29回・第30回等)が記憶に新しい。

 重症化するまで医療放置を続ける

こうした在留資格のない「非正規滞在の外国人」に対する入管の医療放置問題は近年ますます深刻化していると、さいたま教区終身助祭の長澤正隆さんは話す。「非正規滞在の外国人」は、入管収容施設内だけでなく、「仮放免」の申請が許可されれば、地域社会の中で暮らすことになるのだが、入管による医療放置は、次のような〝行動パターン〟を取るという。
入管は①被収容者が病気になれば、まず入管施設内で医療放置を続ける。そして②重症化した場合、大手術が必要か、末期状態で〝手遅れ〟になる段階まで〝待つ〟。そこで③ようやく被収容者に「仮放免」を出す―というものだ。
「仮放免」とは、入管が「非正規滞在の外国人」に対して「入管収容施設の外での生活」を認める制度。つまり、入管は、被収容者が重症患者になるまで〝見て見ぬふり〟をして放置し、〝死ぬ手前〟のギリギリのところで〝希望をかなえてやる〟と言い、「仮放免」制度で入管収容施設の〝外〟に〝放り出す〟というのだ。
この〝卑劣な手段〟に苦しめられ続けていると証言するのは、「仮放免」等の人々の命を守る活動をしている、通称「アミーゴス」のNPO(特定非営利活動)法人北関東医療相談会(後藤裕一郎代表理事/本連載第11回・第12回で紹介)。
去る6月4日、東京・千代田区の厚生労働省内での記者会見室で、「アミーゴス」事務局長で理事でもある長澤さんが、いくつもの事例を挙げて、驚くほどの〝入管の悪質さ〟を証言した。代表的事例を二つ紹介する。
【事例1】外国人女性Aさんは、東京出入国在留管理局(以下・東京入管)の施設で収容中に卵巣がんで体調が悪化。しかし、入管で治療が受けられないまま放置された。「仮放免」となり、現在、腹膜播種(はしゅ)を併発。「ステージ3」でがんが進行している。健康保険には入れないため、治療費は最大800万円かかる。手術を目的とした在留資格の申請をしているが、入管からの許可は下りていない。
【事例2】外国人男性Bさんは、入管施設で収容されている間に体調を崩し、「黒い尿が出るようになった」。入管で医師の診察を希望して訴えたが、3カ月ほど待たされ、適切な治療を受けられないままに「仮放免」となった。胆管結石による腹痛から膵炎(すいえん)を発症し、行き倒れ状態に陥ったところで「アミーゴス」が救済。「無料低額診療」制度を使って入院・加療するが、現在も胆石性膵炎、結石性胆管炎、胆嚢(たんのう)結石症で治療には200万円が求められる。

保険に入れず高額医療費に

「仮放免」の立場では、①就労の禁止、また②国民健康保険に加入できないなど、人間としての最低限度の生活が認められていない。
治療費は100%実費。時には、200%から300%もの医療費を請求されることもあるので、治療をすることができないのが実情だ。そして③治療を目的に在留資格の申請をしても、入管が在留資格を認めることは、まずないという。
在留資格があれば、保険が適応され、医療費の負担が軽くなる。しかし、在留資格が得られない状態が長く続けば、病状はどんどん悪化してしまうのだ。
入管職員はまるで、「私たちの責任になっちゃうから、入管施設内では死なせないよ。でも、在留資格はあげない。『仮放免』許可するから、どこか入管施設の〝外〟で死んでね」とでも言っているかのようだ。
実際に長澤さんが関わったケースとして、長澤さんは記者会見室でこう話した。
カメルーンの難民認定申請者だったレリンディス・マイさん(当時42)は2度、入管施設に収容された。東京入管に収容中、「胸のしこり」と痛みを訴えたが、治療は受けられず、「仮放免」後、子宮筋腫と乳がんを発症していることが判明。
医療費が支払えないマイさんを、善意の人々と病院側が支え、治療は2年間続けられたが、乳がんが再発。がんは脳や肝臓、骨にも転移し、治療法はなくなった。
当時、ホームレス状態だったマイさんは、運よく「アミーゴス」につながることができた。その後、礼拝会(東京)がマイさんに住居を提供することになり、マイさんが寝たきりになった後は、桜町病院(東京・小金井市)が受け入れてくれることになった。しかし、マイさんの容体は悪化するばかり。今年1月23日早朝、帰らぬ人となってしまったのだ。
その間、治療のために切望していたマイさんの「在留資格」の申請は認められなかった。ようやく入管から「在留カード」が届いたのは、なんとマイさんが亡くなった3時間後のことだったという。
「アミーゴス」の事務局員を務める大澤優真さんはこう訴える。
「『自助』でも無理、『共助』にも限界がある、あとは『公助』しかないのに、国も入管も、『仮放免』の人々が働くことや、国民健康保険に入ることも許さない。これは国(国家)による『間接的な殺人』です」
長澤さんも言葉をつないで、「在留資格がないと、医療を受けられないという『制度』そのものに問題がある」と憤る。
日本には生活困窮者のために「無料低額診療」制度というものがある。病院の母体が社会福祉法人の場合、免除されている所得税を生活困窮者の医療費に回すという仕組みだ。
しかし「無料低額診療」を行っている病院も現在はコロナ禍で運営状況が厳しく、「保険に加入していない人」については受け入れを渋るケースが出てきているという。まさに〝「非正規滞在の外国人」はお断り〟という状態なのだ。

在留資格無しは人権もないのか

1965年(昭和40年)に発行された『法的地位200の質問』は、入管付検事を務めた池上努氏(当時東京地検検事)が、日本において「外国人の出入国や在留についてどのような制度を作っているのか」を示したもので、入管職員の〝愛読書〟になっていた。
著書の中で池上氏は、「永住を許可されなかった者及び永住許可申請をしない者に対する処遇」について、次のような驚くべき回答を示している。
「(彼らを)『煮て食おうと焼いて食おうと自由』なのである」(第一六〇問)
人を人とも思わない、このような言動に対して、長澤さんは「昭和の思想がこびりついていて、一向に改革されていない。入管内には今もこうした考え方が残っている」と語気を強め、怒りをあらわにした。
長澤さんは、今、自分たちにできることは、「最も小さい者の一人にしたのは、わたし(イエス)にしてくれたこと」(マタイ25・40)だという聖句を信じて、「命を支える活動」を続けることだと話す。
「アミーゴス」は、常に高額な医療費負担の〝重荷〟を背負いながらも、医療につながれない「仮放免」中の病者を探し出して、「いのち」を支える活動を続けているのだ。
募金窓口は、アミーゴ・北関東医療相談会、ゆうちょ銀行振替口座「記号00150‐9‐374623」。通信欄に必ず「仮放免者への寄付」と明記のこと。

写真(1)=医療につながれない「仮放免」中のクルド難民認定申請者等を対象にした第1回川口医療相談会(4月18日・埼玉県川口市内)

写真(2)=第1回川口医療相談会は北関東医療相談会、クルドを知る会、VIDES(ヴィデス) JAPAN(ジャパン)が共催した

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