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第47回 外国人裁判・勝訴確定の歴史的意義

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㊼ 外国人裁判・勝訴確定の歴史的意義
(カトリック新聞 2021年10月31日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第47回は、前回取り上げた、スリランカ人を母国に即時強制送還した事件についての国家賠償請求(以下・国賠)訴訟の後半。

スリランカ人とベトナム人合計32人が2014年12月18日、東京・羽田空港からチャーター機に乗せられ母国に集団で強制送還された事件。そのうちの2人のスリランカ人男性は、難民として保護を求めていたが「裁判を受ける権利を奪われたまま母国に強制送還された」として、国賠訴訟を起こしていた。
東京高等裁判所は今年9月22日、入管の行為を「違法」とし、国に賠償を命じた。国も上告を断念したため、二人の勝訴が確定した。
10月7日、二人の勝訴確定を受けて、スリランカ送還国賠弁護団は東京・霞が関の東京高等裁判所内にある司法記者クラブで記者会見を開き、勝訴した一人、Aさんもオンラインでスリランカからメッセージを寄せた。
AさんはスリランカでJYP(人民解放戦線)の党員(地方議員)として迫害を受け、日本で難民認定申請(初回)をしていたが、強制送還になった時は、到着したスリランカの空港で警察から約3時間の取り調べを受けたという。スリランカ政府には、日本で難民認定申請をしたことは伝わっていたというが、大統領選挙前の政治不安の最中だったため、その時は殺されずに解放されたと、Aさんは話した。
しかし、同弁護団の指宿(いぶすき)昭一弁護士から「今も安心して暮らしていますか?」と質問されると、Aさんはこう答えた。
「同じ場所にいると、命の危険があって安全ではないので、毎日毎日泊まる場所を変えています。生活のこと、人生のこと、とても大変です。もう一度日本に行って難民認定申請がしたいです」

 送還中に窒息死も

今回のAさんらのように、「非正規滞在の外国人」が裁判を起こして勝訴するケースは極めてまれだという。
これまでの裁判では、入管が、憲法や国際法に違反しても、また明らかな人権侵害を起こしていたとしても、「非正規滞在の外国人」が敗訴するケースが後を絶たなかった。その代表例が、2010年3月、千葉・成田空港から強制送還されたガーナ人男性が、入管職員による過剰な制圧を受けて、機内で急死した事件だ。
そのガーナ人男性は、送還中に〝猿ぐつわ〟のように口にタオルを巻かれ、座席で前屈姿勢を続けさせられて窒息死した。遺族は、国賠訴訟を起こしたが、6年後の16年11月、東京最高裁判所は「制圧と男性の死亡には因果関係がない」とし、遺族の敗訴が確定した。
ではなぜ何十年にもわたり、「非正規滞在の外国人」に対する不当な判決が続いていたのか? その理由は約半世紀前にさかのぼる。40年にわたる数々の外国人裁判の判例の基になったといわれる「マクリーン判決」(1978年)の存在だ。
1970年、入管が米国人ロナルド・アラン・マクリーン氏の在留資格の更新を認めなかったため、マクリーン氏が行政訴訟を起こしたものの、78年、東京最高裁判所はその請求を棄却した。その理由の一つとして裁判官が挙げたのが、これまでの外国人裁判に悪影響を与えた、次の一文だ。
憲法の基本的人権は、外国人の場合、「入管法上の在留制度の枠内でしか保障されない」。
つまり、日本における外国人の基本的人権の保障は、「在留資格のある者」にしか適用されないということだ。

勝訴の大きな意義

「非正規滞在の外国人」には基本的人権の保障はないという意味にもなる。この国際法違反ともいえる「マクリーン判決」が「前例」となり、明らかに入管に違法行為があっても、国がこれまでの外国人裁判で勝訴を続けてきた理由になったのだという。
この点について、全国難民弁護団連絡会議は今年9月28日、スリランカ人男性二人の勝訴を受け、「東京高裁の送還違憲判決に従い難民申請者を含む外国籍者の裁判を受ける権利を保障するよう求める声明」の中で、こう記している。
「『マクリーン判決』が40年以上も影響力を持ち続け、国は入管法によっていかようにも外国籍者の権利を制限できるかのような振る舞いを続けてきました。しかしながら、入管による今回のような恣意(しい)的な権力の行使が許されないこと、外国籍者にも侵害の許されない憲法上の権利があることを、今回の判決は明らかにしました」
今回の判決の意義はほかにもある。
今年5月、廃案となった「入管法改定案」の一つに「3回以上、難民認定申請をした者については強制送還できる」とした項目(送還停止効の例外)があったが、同弁護団の一人、児玉晃一弁護士は記者会見で次のように語っている。
「今回の判決は、何回難民認定申請をしようと、裁判をせずに送還することはできないとして、同項目(送還停止効の例外)を封じ込めたことだ」
日本は「難民鎖国」と呼ばれるほど、難民認定率が1%未満と極端に低い。そのため、母国に帰ると命の危険がある人々は、日本で何度も難民認定申請をすることを余儀なくされている。

「入管法改定案」問題にも影響

スリランカ送還国賠弁護団の高橋済(わたる)弁護士によれば、これまでトルコ国籍のクルド人の難民認定者はゼロ、過去3年間のミャンマー人の難民認定者もゼロ。スリランカ人の難民認定者もゼロだったことが、それを証明している。
しかし入管は、彼らを「難民認定申請の濫(らん)用者」として〝迫害〟を続けていた。これに対し、今回の判決は、「難民申請が濫用的なものであるか否かも含めて司法審査の対象とされるべき」とし、相手が〝難民認定申請の濫用者〟であろうが、なかろうが、「裁判を受ける機会は保障される」という画期的な内容だったのである。
これまで、入管に強制送還された人の中には、既に命を失っている人もいるかもしれない。高橋弁護士は、「支援団体によれば、個別でも過去に違法な強制送還が行われています。これまでに個人・集団で強制送還された人々のその後を追跡調査し、日本で難民認定申請をする機会を今からでも回復させるべきです」と訴えていた。
今後も国際法に基づいた〝正しい判決〟が出てくれば、入管行政は変わらざるを得なくなる。今回の判決が入管行政への「蟻(あり)の一穴(いっけつ)」になるとの期待が高まっている。

写真=スリランカ人男性2人の勝訴確定を受けて10月7日、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いたスリランカ送還国賠弁護団

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