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第59回 医療から排除される「仮放免者(かりほうめんしゃ)」

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59 医療から排除される「仮放免者(かりほうめんしゃ)」
(カトリック新聞 2022年5月1日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第59回は、在留資格がもらえず、仮放免生活(入管収容施設外での生活)を強いられている難民認定申請者等の生活実態アンケート調査報告の後半。国民健康保険の加入が認められていない彼らの現状について。

NPO法人北関東医療相談会(後藤裕一郎理事長/通称アミーゴス)は、「仮放免者」(仮放免中の外国人の意味)が直面している現状を把握したいと、昨年10月から2カ月かけて「仮放免者生活実態調査」を実施した。
「仮放免」とは、入管が「非正規滞在の外国人」に対して、入管収容施設外での生活を認める制度だが、「仮放免」中は、①就労が禁止され、また②国民健康保険に加入することができない。
3月8日、東京・千代田区の厚生労働省内で開かれた調査結果についての記者会見で、アミーゴス事務局長で理事の長澤正隆さん(さいたま教区終身助祭)は、仮放免者の医療状況について問題点を次のように指摘した。

入管収容が病者を生む

まず、「仮放免者」が病気を発症する原因となるのは、入管施設での無期限・長期収容だ。自由も希望もない収容生活の中で、難民認定申請者等は脳や心臓、消化器、また精神などを病む。入管収容は、病者を生み出す〝拷問〟のようなものだ。また病を得ても、難民認定申請者等は適切な治療を受けられずに〝医療放置〟の状態に置かれる(本連載第56回紹介)。
また最近では、こんな出来事があった。入管に収容され、後に病を得て仮放免となったある外国人が、入管の診療室で書いてもらったという診断書をアミーゴスに持ってきて医療費の支援を求めてきたというのだ。
これについて、長澤さんは入管の対応にこう疑問を投げかける。
「診断書には、双極性障害という精神の病気、そして心不全と書いてある。入管がその診断書を出したのなら、入管自身がその人に治療や手術を受けさせるのは当たり前の話。それなのに、国民健康保険に入れず、高額の医療費がかかることが分かっていて、その人を仮放免にして、入管収容施設の外に放り出す。誰がその医療費を払うのでしょうか。どうしてそういうことが平気でできるのか。どう考えてもおかしいですよ」
長澤さんが事務局長を務めるアミーゴスは、長年、こうした病気を抱えた仮放免者を医療機関につなげる取り組みを行っている。昨年は2千万円以上の医療費や家賃・食料支援費がかかった。さまざまな支援団体に助成金の申請を行っているが、近年は医療費がかさみ、昨年から助成金だけではどうにもならない状況が続いているというのだ。

医療費は実費以上

その理由の第一は、国立大学の病院や、国立系の病院では、無保険の人に高額の医療費を請求するからだという。
仮放免者は国民健康保険に入れないため、医療費は〝割引〟のない実費(100%)となる。しかし、国立大学の病院や、国立系の病院では、訪日外国人観光客による日本国内での消費活動「インバウンド」の一環で、無保険の外国人(観光客)の医療費を、実費の2倍から3倍に引き上げて請求するケースが多いのだ。
「無保険の外国人には、全てこのような対応をするため、海外から来た外国人観光客だけではなく、国民健康保険に入れない仮放免者も全員、この高額医療費の〝網〟に引っかかってしまう。経済的に困窮する地域の人たちの医療について考えるセンスが、国立大学の病院や、国立系の病院にはないのです」
そして二つ目の理由は、生活困窮者のための「無料低額診療制度」の運用法だ。
この制度は、病院の母体が社会福祉法人の場合、病院が免除されている所得税を生活困窮者の医療費に回すという仕組み。
数年前までは生活に困窮する外国人や無保険の外国人がこの制度を利用し、無料または低額で医療を受けることができた。しかし、近年は日本人の生活困窮者が優先され、外国人に対しては、病院側がこの制度を使いたがらない傾向があるという。
実際、重度の心臓病を患っているある仮放免者は、通院している病院の「無料低額診療制度」を利用しているが、通常の通院費は無料でも、一番必要とされている緊急の心臓手術は受けさせてもらえない。
その理由は、無保険だと手術費に800万円以上かかるからだ。治療のために在留資格が下りれば、手術費は10万円程度で済むのだが、入管は在留資格を与えようとはしない。
「ですから無料低額診療制度があっても、心臓病や脳の病気がある仮放免者は、かわいそうになるくらい、治療や手術を受けさせてもらえない。もし、この制度が使えなくなるとしたら、私たちが支援団体から助成金をもらって医療費支援をしても、とても足りないです」と長澤さんは訴える。
アミーゴスでは、心臓病がある仮放免者を多く抱えているため、その医療費は募金活動に頼るしかないのが実情だという。

コロナ対策でも仮放免者を排除

この医療費問題は、新型コロナウイルス感染対策でも例外ではない。厚生労働省は、仮放免者など在留資格がない外国人に対しても、無料で新型コロナワクチン接種ができることを昨年3月31日付で発表している。
PCR検査も基本的にほぼ無料なのだが、長澤さんによれば、最近は市町村によっては仮放免者を〝排除〟する方向に向かっているという。仮放免者の場合、コロナ感染が疑われれば初診料として1人につき約1万円が請求される。PCR検査を公費にするか自費にするかは、病院の医師が決めるのだが、自費となれば2~3万円かかる。そしてコロナに感染した場合は、介護タクシーで移動しなければならないため、費用が3万円かかる。
「この前、コロナに感染した仮放免者に対して7万円の請求が来たのですが、病院側と交渉してもどうにもならなかった。仮放免中の家族4人が感染したら、28万円請求されることになるわけです」
このように医療費負担を強いられると、たとえコロナに感染しても病院につながらない仮放免者が増える可能性が高くなり、感染防止対策に逆行することになる。
「在留資格のない仮放免者だから除外していいという話にはならない」と長澤さんは憤る。
こうした現状を鑑み、「仮放免者生活実態調査」の結果も踏まえて、記者会見の席上、アミーゴスは入管行政の施策について、次の四つを提言として示した。
「仮放免者」に対しては、まず①就労を認めること。そして②国民健康保険など医療保険の加入を認めること。さらに③無料低額診療事業を行う医療機関への支援・未払い補填(ほてん)事業の整備拡充を行うこと。
最後は④生活保護法を仮放免者にも適用することだ。
「いろいろな制度を使うことによって人間は生きていけます。私たちが作ってきた、命を守るための一つ一つの制度から、仮放免者を排除することがあってはならないのです」と長澤さんは力説していた。
医療費の募金窓口は、「アミーゴ・北関東医療相談会」、ゆうちょ銀行振替口座「記号00150‐9‐374623」。通信欄に必ず「仮放免者への寄付」と明記のこと。

北関東医療相談会が実施した「仮放免者生活実態調査」に関する記者会見(厚生労働省内)。右から2人目が長澤正隆さん

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