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第39回「 世論づくり」に学生が結集

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㊴「世論づくり」に学生が結集
(カトリック新聞 2021年7月18日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第39回は、今年3月、名古屋出入国在留管理局(以下・名古屋入管)で起きたスリランカ人留学生の死亡事件(本連載第29回などで既報)をきっかけに始まった、学生たちの人権活動を取材した。

変革は若者から

関東、東海、関西の三つの学生らの団体が、入管行政を変えるために一つになってグループを立ち上げ、署名活動を開始したのは7月7日のことだ。
名古屋入管でスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が医療放置され、死亡した事件(3月6日)は「入管法改定案」の国会審議のさなか、マスコミでも大きく取り上げられた。これがきっかけとなり、入管行政の〝内幕=人権侵害〟が初めて世の中に知れ渡り、憤りを覚えた人は多い。
実際に、入管行政による〝人権侵害〟や難民条約〝無視〟、国際法〝違反〟などの〝悪行〟に対して、抗議の声を上げる若者たちが増えてきていると学生たちは話す。
こうした世論が逆風となり、与党は「入管改定案」の審議を断念せざるを得なくなった。問題は解決したかのように見えるが、実際は、現行の入管法の問題が改善されないまま立ちはだかっている。
ウィシュマさんの死亡事件から4カ月がたち、事件の悲惨さや入管の〝ひどさ〟も忘れ去られてしまうのではないかと危惧される中、関東、東海、関西の学生たちが自発的に協力し、署名活動を始めたことについて変革の〝光明〟を感じる者も多いだろう。
ウィシュマさんは、今年の1月中旬頃から嘔吐(おうと)を繰り返し、食事や水、薬も摂取できない状態に陥っていた。本人や支援団体・支援者が「点滴・入院」を要望していたが、名古屋入管は、ウィシュマさんを「詐病」と決め付け、点滴も打たせず、入院もさせず、「仮放免」(入管収容施設外での生活)許可も出さなかった。
その結果、ウィシュマさんは体調不良からわずか2カ月後に死亡したのだ。しかし、この死亡事件に関する、4月9日公表の「中間報告書」には、本人や支援者が「点滴・入院」を求めていたことなどの記載は全く無く、組織ぐるみの隠蔽(いんぺい)工作が公になった。

「最終報告書」に期待はできない

7月7日、関東、東海、関西の学生らの3団体が「ウィシュマさん死亡事件の真相究明を求める学生・市民の会」を結成した。そして、学生らの力を結集させ、①ウィシュマさんの最期の姿が映っている名古屋入管の監視カメラ映像の開示と、②再発防止徹底を求める署名活動を始めたという。
「外国人労働者・難民と共に歩む会」として活動するこの3団体の名称は、以下の通り。関東は「BOND(ボンド)」、東海は「START(スタート)」、そして関西は「TRY(トライ)」。3団体のメンバーは、それぞれの地域にある入管収容施設で面会活動を行ってきた。
学生たちは、被収容者の訴えを聞き、現場で働く入管職員の態度にも接しているので、入管行政の〝実態〟は肌で感じ取っている。
学生らの3団体の結成記者会見が行われた7月7日、学生たちは東京・千代田区の厚生労働省の記者会見室で、一致団結して署名活動を始めた背景について説明した。
ウィシュマさん死亡事件の「最終報告書」をまとめるために入管職員は6月17日、STARTのメンバーにヒアリング(聴取)を行った。生前のウィシュマさんに面会をしたSTARTの千種(ちくさ)朋恵さん(愛知県立大学3年)はこう語った。
「ヒアリングの質問の中には、『(STARTの)活動資金はどこから出ているのか』とか、『(ウィシュマさんに対して)病気になれば仮釈放(仮放免)してもらえるからと、(STARTが)詐病をそそのかしたのではないか』といった内容が繰り返しあったのです。そういう趣旨の発言はしていないとはっきり伝えても、同じような質問が何度も何度もしつこく繰り返し行われました」
7月中に公表予定になっている「最終報告書」では、ウィシュマさんの死の〝真相〟が明らかになるかもしれないという〝かすかな期待〟がSTARTメンバーの中にもあったという。しかし、千種さんたちは、その時、次のことに気が付いたのだ。
―入管による調査は、ウィシュマさん死亡事件の真相を解明するものでもなく、また再発防止のための原因究明のためのものでもない。むしろヒアリングは、本来あるべき「入管の責任」を、支援者に転嫁するための誘導尋問だ―。
そのため、STARTメンバーはヒアリングの途中で退席し、翌日には、①調査にはこれ以上協力できないこと、また②このままでは「最終報告書」も〝「中間報告書」の焼き直し〟になる可能性が高いという旨の見解を入管に伝えたことを明言した。
そして学生たちは、入管にはこれ以上何も期待できないと感じ、「ビデオ開示等、真相解明、再発防止を強く迫る、広範な世論をつくる活動」を自分たちで盛り上げていこうと決断したのだという。

入管行政による被害者が続々

大阪出入国在留管理局(以下・大阪入管)で面会活動をするTRYの松田成美さん(神戸市外国語大学4年)も記者会見室でこう〝証言〟した。
「ウィシュマさん死亡事件で明るみに出た『入管行政の体質』は例外がなく、大阪入管でもさまざまな人権侵害が起きてます。その事例の一つですが、大勢の職員が〝制圧〟と称して、被収容者の肩を骨折させたり、14時間もの間、後ろ手に手錠をしたまま被収容者を〝隔離部屋(懲罰房)〟に閉じ込めたこともあります」
また2018年6月の大阪北部地震の際には、6人部屋に17人もの被収容者が閉じ込められ、24時間以上もの間、外部から施錠・拘禁されたという。
「私たちの感覚からすれば、『虐待』と言ってもおかしくないようなことが平然と行われています。こうした『外国人差別』を当たり前のように行う『入管の体質』が、ウィシュマさん死亡事件を引き起こしたと言えるのではないでしょうか」と松田さんは憤る。
そしてウィシュマさんを死に追いやった名古屋入管でもその後、入管行政が改善された兆しはない。それどころか、「第2のウィシュマさん事件」を引き起こすのではないかと危惧される案件が幾つも起きているのだ。
先日、名古屋入管でウィシュマさんと同様、食事も水も摂取できない男性被収容者が意識不明に陥り、外部の病院に救急搬送されるという事件が起きた。被収容者の男性は、病院で点滴は受けたものの、治療をせずにすぐに名古屋入管に戻された。
そして具合が悪いその男性が、部屋の移動を拒否したことをきっかけに、20人もの入管職員が〝制圧〟行為に及んだという。病気で衰弱しているその男性の手足を押さえ付け、胸をたたいて失神させ、無理やり〝懲罰房〟に移動させた。さらに自由時間も与えず4日間〝懲罰房〟に閉じ込めたというのだ。その〝懲罰房〟には、ベッドも布団も何もなかったという。

 「ビデオ開示」それが〝鍵〟

今年5月、名古屋で営まれたウィシュマさんの葬儀に出席するために、支援者の協力でスリランカから来日した遺族である二人の妹は、今も日本に滞在して、「姉の死を最後にしてほしい」と願い、新たな犠牲者が出ないようにと訴え続けている。
しかし、記者会見室に顔を見せたウィシュマさんの妹、ワヨミさんは「姉の死の真相が分かるまで帰国しない覚悟を決めている」と言うが、絞り出すように悲痛な声で胸中をこう吐露した。
「何も進展していない。『最終報告書』にも期待していない。(入管や法務省からは)うそしか出てこない。私も心身共に疲れてしまった」
このままでは、入管の〝逃げ得〟となり、ウィシュマさんの死の真相は明かにされぬまま、闇に葬り去られてしまう。そして新たな犠牲者が出るのは想像に難くない。
今も、上川陽子法務大臣は、「ビデオ開示」については〝敢然と拒否〟し続けている。それほどひた隠しにする重要な内容が収められているウィシュマさんの最期を映し出しているビデオなのだ。だからこそ、学生たちは、「ビデオの開示」こそが、入管行政を方向転換させる〝鍵〟になると考え、署名活動を始めることにしたと語っていた。
関東の学生団体BONDの川村ひなのさん(上智大学4年)は、活動への思いをこう語る。
「〝在留資格のない人は死んでもいい〟という思想は、『外国人差別』から来ていると思います。日本における人種差別には本当に怒りを感じていますが、その怒りをエネルギーに変えて、全ての人の人権が当たり前に守られる社会づくりに力を注いでいきたい」
学生たちは、署名活動と並行して、被収容者への面会活動や、入管による人権侵害について広く情報を発信する活動にも取り組みながら、入管行政の改善を求める活動を粘り強く続けていくと覚悟を語っていた。
署名は以下のURL(http://chng.it/9N9hfNvWCp)から参加できる。

写真=関東、東海、関西の学生たちが「ウィシュマさん死亡事件の真相究明を求める学生・市民の会」を結成した(7月7日・厚生労働省の記者会見室)

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