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第42回 入管が隠す〝闇〟

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㊷ 入管が隠す〝闇〟
(カトリック新聞 2021年9月5日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第42回は、前回に続きスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)の死亡事件の〝最終報告書〟について。今回は、名古屋出入国在留管理局(以下・名古屋入管)の監視カメラに映るウィシュマさんの姿と〝最終報告書〟の違いについてビデオ映像を見た遺族の証言を基に明らかにする。

8月12日、ウィシュマさんの二人の妹は名古屋入管が編集・開示したビデオを見た直後の〝記者会見〟(東京・法務省前)でこう訴えた。
「ここで言えるのは、お姉さんは殺されたということです」(三女・ポールニマさん)
そしてもう一人の妹ワヨミさん(次女)は、法務省周辺に響き渡るような大声で「お姉さんを助けることができたのに、(入管職員はお姉さんを)病院に連れて行かず、犬のように扱った」と泣き崩れた。
二人の妹たちが見た、名古屋入管の監視カメラに映った姉ウィシュマさんの姿(以下「ビデオ映像」)は、いったいどのようなものだったのだろうか。

あまりのむごさに遺族は体調を崩す

ビデオ開示を拒否し続けていた法務省や入管は、2週間分の「ビデオ映像」を2時間に編集し、ウィシュマさんの遺族にだけ開示した。
入手した資料によれば、映像内容は、ウィシュマさんが死亡する2週間前の2月22日からのものだ。ベッドの上で苦しみながら大きなうなり声を上げる様子(2月22日)。「私、死ぬ」「セーライン(点滴)」と身振り手振りで何度も点滴治療を懇願する姿(23日)。もだえ苦しみ、寝返りを打ってベッドから落ちる。しかし、自力では起き上がることはできない。インターホン越しに泣きながら助けを呼ぶ回数は実に23回にも及んでいた(26日)。職員から渡された薬を飲もうと水を口にするが嘔吐(おうと)、次に口にしたカフェオレがうまく飲めず吹き出す様子(3月1日)などが映っていたという。
ビデオを見始めて妹のワヨミさんは最愛の姉が衰弱していく様子に耐え切れず、大声で泣き出し、トイレに駆け込み嘔吐するほどだった。ビデオ開示については遺族代理人弁護士の立ち会いは許可されなかったが、弁護士はこれ以上続けると、遺族の健康状態がもたないと判断し、その日のビデオ開示は50分を残し中断となった。
直後からワヨミさんは体調を崩し、現在も療養中。ビデオ開示の再開日は未定のままとなっている。

「最終報告書」と異なるビデオ内容

入管は8月10日、〝最終版〟とする「調査報告書」(以下「最終報告書」)を公開しているが、開示された「ビデオ映像」と「最終報告書」には明らかに違いがある。妹たち遺族が見た「ビデオ映像は、編集版全体(2時間)の内の半分強(1時間10分)。それでも、「最終報告書」に示された事実とビデオ映像とは異なることが分かっている。
2月26日にウィシュマさんがベッドから落ちた出来事について、「最終報告書」80~81㌻には、こう書かれている。「A氏」とはウィシュマさんのことだ。
「A氏がバランスを崩してベッドから落下したのに対して、看守勤務者2名がA氏の居室に入室し、2名でA氏の体を持ち上げてベッド上に移動させようとしたが、持ち上げることができなかった」
そのため、対応可能な看守勤務者が増える時間まで、ウィシュマさんに、我慢して床の上で毛布を掛けて寝ていてほしいと告げたというのである。
しかし、実際に「ビデオ映像」に映っていたのは、看守勤務者2人がウィシュマさんを持ち上げようともせず、ただ服を引っ張って、床の上でグルグル回しているだけの姿だった。
そして2人の看守勤務者は床に毛布を敷く時には、ウィシュマさんを持ち上げ、そのまま床に放置。ウィシュマさんをまたいでいったということだ。
また3月1日にウィシュマさんがカフェオレを飲み込めず吹き出してしまった場面では、一人の看守勤務者が、あるコミックソングを使い「鼻から牛乳」と言ってウィシュマさんをからかい、もう一人の勤務者が「このネタ分かるかな」などと呼応する様子が映っている。瀕死(ひんし)の病人、ウィシュマさんをあざけるような態度だ。
しかし「最終報告書」には、「A氏の介助等により業務に負担が生じていた状況が長期化しつつあった中、職員の気持ちを軽くするとともにA氏本人にもフレンドリーに接したいなどの思いから軽口を叩いたもの」と、平然と記している。
結果として、「最終報告書」も「ビデオ映像」も、名古屋入管職員の人権意識の低さや〝落ち度〟などに焦点を当て、ウィシュマさん死亡事件は、入管には関係がなく職員個人の問題として片付けられるように編集されているのだ。それこそが、2時間に編集された「ビデオ映像」のねらいだったのではないか。
開示された「ビデオ映像」は、2週間分(336時間)のものをたった2時間にまとめたもの。残りの334時間分のビデオ映像には一体何が映っていたのだろうか、何を隠蔽(いんぺい)したのかという問題は依然として残されているのだ。

1万5千枚の黒塗り公文書

それを裏付ける事件がすでに起きている。遺族代理人弁護団は5月12日付で、ウィシュマさんの収容に関する資料について名古屋入管に開示請求したのだ。費用は15万円以上。
弁護士の元に8月2日、3箱分のダンボール箱が到着。看守勤務日誌や健康状態を示す診療結果報告書、ウィシュマさんの面会簿など、ウィシュマさん死亡事件の背景を読み解く証拠となる貴重な資料が入っていた。ところが、1万5千枚以上の文書のコピーは、驚くべきことに、ほぼ全てが黒塗りになっていて、何一つ情報が開示されなかったのだ。
これまでにも入管が隠したものは、「中間報告書」には記載されなかった、ウィシュマさんの病状が危機的状況だったことを示す尿検査のデータなど、数え切れないという。
8月13日の記者会見(東京・参議院議員会館)で、オーバーステイ(超過滞在)のスリランカ人を主人公にした『やさしい猫』の著者である小説家の中島京子さんは、入管の一連の対応について問題の本質をこう指摘した。
「『入管収容』という苦痛を与えて、ウィシュマさんに『帰国するしかない』と思わせること。収容という『苦痛』を与えることが、送還の道具として使われている」
入管が組織ぐるみで、ウィシュマさんを帰国させるために拷問を与え続けたことを証明できる2週間分のビデオ映像。そのすべてが開示されるまで、遺族は戦い続ける覚悟だという。

写真(1)=名古屋入管が開示した、ウィシュマさんの収容に関する文書は、ほぼ全て「黒塗り」だった

写真(2)=ほぼ全て黒塗りの文書は1万5千枚以上。遺族代理人弁護士らが壁に貼り「入管の闇」を表現した

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