日本カトリック難民移住移動者委員会(J-CaRM)は福音に基づいて、多民族・多文化・多国籍共生の社会をめざしています。

第33回 一人一人の声が世論をつくる

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㉝一人一人の声が世論をつくる
(カトリック新聞 2021年5月16日号掲載)

日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、帰れない重い事情のある者たちの強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」に対する、人権侵害を考えるシリーズ第33回は、入管法改定案(以下「政府案」)の採択を阻止しようと抗議活動をする市民たちを取材した。

難民認定申請者等の「非正規滞在の外国人」への管理を強化し、彼らを徹底的に排除する「政府案」の審議が4月19日に衆議院法務委員会で開始。5月7日には、法務委員会での審議が尽くされないまま、与党による「強行採決」という話も出た。
しかし、それを阻止したのは、弁護士や支援者ら市民の「廃案しかない」という強い信念と覚悟に基づいたデモや座り込みなどの抗議行動だった。こうした市民の結集した〝力〟は、「政府案」に反対する野党議員たちを後押ししたようだ。

弁護士の無言デモ若者も抗議の集会

4月から5月にかけて、東京、大阪、名古屋では弁護士が「サイレント(無言)のデモ行進」や集会を実施。移住者と連帯する全国ネットワークは法務委員会の開催日に合わせて国会前で座り込みの抗議活動を継続している。
さまざまなSNS(会員制交流サイト)などで「非正規滞在の外国人」の実情を知った大学生や高校生も、国会前で抗議の集会を開き、その様子をSNSで拡散。さらに弁護士や支援者らは、与野党の法務委員会の理事・委員、国会対策委員会委員長に宛てて、抗議や応援のメッセージをファクスやメール等で根気強く送り続けているのだ。
一方で5月6日、作家など著名人らは「入管法改悪廃止を求める有志の会」の記者会見を東京都内で開いた。
キリスト教界内では、プロテスタントとカトリックの有志の教会・団体で「教会共同声明」を発信。日本カトリック難民移住移動者委員会は署名活動やセミナーを実施している。また日本カトリック女性団体連盟(日カ(にっか)連)の霊的司教を務めるさいたま教区の山野内倫昭(みちあき)司教は、日カ連初のオンラインによる祈りの集い(4月28日夜)で、入管法の改善を求める意向で祈ることを呼び掛けた。
一人一人の「多文化・多民族共生社会を実現させよう」という思いが強まり、それぞれの立場でできる何かを始めたことは、「入管の長期収容・強制送還」の問題が少しずつ知れ渡り、わずかではあるが、「政府案」反対の〝世論〟が芽吹いてきた証しだと言えよう。
抗議行動に参加した者の中には、拘束される危険を顧みずに、いのちの尊厳を訴えてデモに参加する当事者の外国人の姿もあった。以下、取材で得た人々の勇気ある声を紹介する。

行き場のない人の強制送還はいじめ

「政府案」の問題点は幾つもあるが、そのうちの一つは、難民認定申請が3回目以降の者は、母国で迫害の可能性があっても強制送還できるというもの。さらに「退去命令期限」までに帰国しない場合は、刑事罰を与えるというものだ。
エッセイストの小島慶子さんは、「入管法改悪に反対する記者会見」(4月7日、厚生労働省内)でこう述べた。
「私の周りに難民も在留資格を失って困っている人もいない。でも(この問題が)身近に感じた理由は、いじめだと思ったから。いじめで人は死ぬ。いじめとは仲間外れ。〝仲間じゃない人が死んでいい〟ということがまかり通ってはいけない。国が法律を使って、『仲間じゃない人は死んでいいんです』という仕組みをつくっているとしたら、そんな国で安心して暮らせるだろうか。しかも誰が死んでいいかが(入管の)裁量一つで決まる。私はそれに気付いた時に本当に怖くなった」

「難民」の収容はさらなる虐待だ

沖縄から駆け付けたお笑い芸人でユーチューバーの「せやろがいおじさん」こと榎森(えもり)耕助さんは、東日本入国管理センター(茨城県牛久市)に収容されている難民認定申請者に出会った経験を基にこう話した。
「(被収容者が)母国で銃撃を受けた背中の生々しい傷跡を見せてくださいました。そんな状態でも難民として認められない。その人は『母国の迫害から逃れてきた人を収容して送り返すことは虐待だ』とおっしゃっていました。これは人権問題です。入管の長期収容問題で当事者の日本人はいない。だからなかなか関心の声が広がっていかない。でも日本人だから助ける、外国人だから助けないというのは、日本人の人権感覚が強く問われているような気がする」

在留資格失うと留学生さえ収容

今回の「入管法改悪反対」で声を上げる市民の中には、大学生など若者の姿が目立つ。参加理由の多くが「大学でも身近に留学生がたくさんいるのに、留学生でさえ入管施設に収容され、死亡するのだと知り、ひとごとと思えなくなった」というものだ。
若者の心を揺さぶったのは、元留学生のスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんの死亡事件。授業料が払えず留学生の在留資格を失ったウィシュマさんは入管に収容され、医療放置の末、3月6日に死亡した(本連載第29回・第30回紹介)。
しかし「政府案」では、現行法と同様に収容期限に上限は設けられてはいない。また、収容の要件も示されず、司法審査も必要ない、としている。つまり入管は、国際法違反と指摘されているにもかかわらず、司法や第三者機関等からの監視・制約も受けずに「自由裁量」で人を拘束する権限を持つこととなるのだ。

入管の権限は問われるべき

5月6日の「記者会見」には、小説家の中島京子さんと星野智幸さん、作家の温又柔(おんゆうじゅう)さんらも登壇。中島さんは次のように話した。
「入管は絶大な権力を持ち過ぎているのでそこにこそメスを入れて、入管の権限が問われるべき。しかし今回の法案は逆の方向に向いています。(入管が)ウィシュマさんの死について納得のいく説明もしないまま、入管の権限を強める〝法改正〟を通していいはずがない。両党の議員の方々には正気を取り戻して議論を尽くしていただきたい」
また星野さんはこう述べた。
「今回の法案は、法の主旨を逸脱している。『俺がルールブックだ』ならぬ、『法は私の気分で決める』ということを制度化したようなものだ。法治主義、民主主義を信じる僕には、この法案は受け入れられない。皆が無関心でいる間に、権力が暴力に変質した」
タレントで俳優のラサール石井さんも怒りをあらわにして、「オリンピックの最初の招致の時には『おもてなし』と言って、『(日本に)来てください』と両手を広げたのに、もう片方では(外国人たちを)〝虫けら〟のように扱う『人でなし』(なことをしている)。なぜこのように差別するのか」と訴えた。
このほか、記者会見の主催グループには、次のようなメッセージが寄せられている。
「孤立している人を助けないことで、私たちが世界から孤立する。これは難民の方々を助ける『国境なき医師団』を世界中で取材した上での切実な実感です。入管法改悪に反対します」(小説家・クリエイター いとうせいこうさん)
「今の日本に必要なのは人間の尊厳です。日本に希望を持って入国し庇護(ひご)を求めている人々に対し、国際水準に沿った難民審査の適正化を求めます。また、この度の入管法改定について根本からの見直しを求めます」(テコンドーオリンピアン 高橋美穂さん)

写真=弁護士たちが入管法改悪廃止を求めるプラカードを掲げて、無言のうちに東京・日比谷周辺でデモ行進をした(4月21日)

 

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