日本カトリック難民移住移動者委員会(J-CaRM)は福音に基づいて、多民族・多文化・多国籍共生の社会をめざしています。

第8回「隣人愛」を実践すれば逮捕され得る法案

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(カトリック新聞2020年6月28日号掲載)
 日本にはさまざまな事情で暮らす、いわゆる「非正規滞在の外国人」が大勢いる。しかし、日本政府は彼らの個別の事情を考慮せず、既に「出入国管理及び難民認定法」(入管法)上の退去強制令書が出ていることを根拠に、法務省・出入国在留管理庁(以下・入管)の収容施設に無期限で長期収容したり、強制送還を行ったりしている。「非正規滞在の外国人」への人権侵害を考えるシリーズ第8回は、法務省が早ければ今秋の臨時国会に提出するものと見込まれている入管法〝改正〟案(以下・「法案」)の〝恐ろしさ〟について。

 「これはローマ・カトリック教会系の支援組織、CTIC(カトリック東京国際センター)の活動写真です。『ごはんがない』と困窮する『非正規滞在の外国人』にも、食料支援をしています。でもこの善意が、『法案』によって犯罪になり得るというのです」
 約1カ月前に超党派の議員が立ち上げた「難民問題に関する議員懇談会」は6月18日、入管法改正問題緊急勉強会(石橋通宏会長)を東京の参議院議員会館で開催した。「収容・送還問題を考える会」のメンバー、髙橋済、駒井知会、指宿昭一の3弁護士が登壇し、髙橋弁護士が写真を紹介しながら冒頭の発言をしたのだ。

 難民を追い返す

 法務省が秋の臨時国会に向け、提出予定の「法案」の土台となるのは、法務大臣直轄諮問機関「政策懇談会」の「収容・送還に関する専門部会」が取りまとめた「提言」。6月19日に公表された「提言」(法務省ホームページ参照)には幾つもの問題点があるが、そのうちの一つが「送還忌避罪」というものだ。
 日本には、母国で迫害され、保護を求めて難民認定申請をしている外国人が多数存在する。しかし、日本の難民認定率は極めて低く、1%にも満たない。他の国々では難民認定されている外国人が日本では難民認定されないという状況がある。
 母国で迫害された外国人が、難民条約に加盟している日本に逃れてきたものの難民認定されずに、「母国に帰ると本当に殺されるのです」と、入管からの退去強制命令を拒否した場合、一定の要件の下でこれが犯罪になり得るというのが今回の「送還忌避罪」というもの。つまり、難民を日本から追い返すために、彼らを犯罪者に仕立てることができるという〝恐ろしい〟ものなのである。
 日本は難民条約に加盟している。従って、「母国に帰れば殺される可能性の高い人を帰してはいけない」というノン・ルフールマン原則を守る義務がある。しかし、今回の「提言」では〝恐ろしい〟ことに、難民認定申請が2度目以降であれば、「母国で命の危険がある」との恐怖を抱く難民認定申請者でも、帰国をさらに求められて拒めば、彼・彼女を「犯罪者」にしてしまうことが可能になるというのだ。これは難民条約の原則と相反する暴挙と言わざるを得ない。

 イエスの教えは〝犯罪行為〟

 〝恐ろしい〟ことは他にもある。現在、弁護士や市民、人権活動家を驚愕させているのは、こうした行き場のない外国人を支援する行為も犯罪になるというものだ。それが冒頭の髙橋弁護士による「『法案』によって、教会の善意が犯罪になり得る」という発言になったのだ。
 強制送還を拒否した外国人に対して、支援者が「母国に帰れば殺されるから、日本で頑張ろう」と励ます行為は、教唆(そそのかし)となり、また食料等の支援を行うことは幇助(手助け)となる。つまり、「送還忌避罪」の「共犯」になり得るというのだ。
 刑法の適用により通常の法解釈で、そうした外国人に食事や医療、居場所、住居、カンパを提供する支援も、日本語を教える学習支援も、さらに「再度の手続きや訴訟で在留資格を勝ち取ろう」と法的支援を行う弁護士の活動さえも「共犯」の対象と見られる可能性が出てくるという。
 入管法改正問題緊急勉強会で、駒井弁護士はこう訴えた。
 「99%以上の難民認定申請者が保護されない日本で、難民認定を受けられず、母国に帰るに帰れない人たちを何とか助けたいと願う市民の善意の活動が、今、犯罪にされようとしています。あるいはまた、日本で生まれ育った在留資格のない同級生を励まそうとする高校生たちの優しさの故に、クラス全員が犯罪集団というレッテルを貼られてしまう恐れが出てきているのです。善意の市民や活動家、宗教者、学生ボランティア、弁護士をも今後、犯罪者としてしまう恐ろしい危険性を秘めた法律が今、作られようとしていると思えてなりません」
 イエスの教えは、「他者を自分のように愛する」という隣人愛の精神に尽きる。第2次世界大戦中のナチス政権下で、ユダヤ人をかくまったポーランド人らが死刑になったように、日本でも隣人愛の精神を実践することが「犯罪」とみなされる時代になってしまうのだろうか。それはかつて「信教の自由」を奪われた「キリシタン禁教下」と同じ時代に逆戻りすることを意味している。
 6月15日に参議院議員会館で開かれた弁護士主催の記者勉強会でも、指宿弁護士は「これは弁護士や市民団体への挑戦です。もしかしたら『法案』のターゲットは、支援者なのかもしれません。支援者をすぐに逮捕しなくても、恐怖心によって支援活動を萎縮させることができるからです」と指摘していた。
 法務省は、是が非でも秋の臨時国会でこの「法案」を通そうと並々ならぬ決意を示しているといわれている。徳永エリ議員(国民民主党)は、「〝とんでもない法案〟についてSNS(会員制交流サイト)で発信し、廃案にしなればなりません」と語気を強める。
 そして入管法改正問題緊急勉強会に参加していた「移住者と連帯する全国ネットワーク」代表理事の鳥井一平さんも「逮捕するなら、逮捕してみろ。それでも私は、移住者の手を絶対に離しはしません。この『法案』を絶対、廃案にしてみせます」と憤りをあらわにしていた。

昨年度の難民移住移動者委員会「全国担当者/ネットワーク合同ミーティング」。在留資格の有無に関係なく、外国人のいのちを守るため情報を共有する

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